第343話:三人と三姉妹と三美と 前編
レスティーの言葉が
"Sarimmeni flammir, vaweree, vidisr ietbudetty."
誰に対してのものなのか、分かるものだけが反応できる。
主物質界における言語ではない。ヒオレディーリナはもちろんのこと、フィアでさえも理解できない、レスティーのみが扱える超高度かつ難解な言語だ。
≪大歓喜。我亢昂奮≫
トゥウェルテナのもとに戻っていた湾刀の一振りが勢いよく空へと
≪貴女まで。本当に仕方がないわね。そういう私でさえ、我慢できないもの≫
さすがに長姉たるイェフィヤは少しだけ冷静だ。今の主たるトゥウェルテナに静かに
≪トゥウェルテナ、少し離れるわ。真の主様に呼ばれているの。その代わり、よいものを見せてあげる≫
トゥウェルテナも理解している。真の主が誰なのか、さらには自分に止める権利などないということも。
≪よいものねえ。じゃあ期待しているわあ。ねえ、イェフィヤ、カラロェリと一緒に戻ってくるわよね≫
トゥウェルテナの問いには応えられない。戻るか
カラロェリと異なり、イェフィヤは名残惜しそうにゆっくりとトゥウェルテナの右手から離れていく。
≪その問いには応えられないわ。分かっているでしょう≫
≪分かってるわよお≫
カラロェリの後を追って空を駆けるイェフィヤは、素直で一途なトゥウェルテナの思いを感じ取っている。
(真っすぐだけど、どこか
「最終解放してやりたいところだが、ここでは叶わぬ。第一解放状態で許せ」
両手を掲げたレスティーの頭上で
"Demnfer oersfet byjer tilsij pienyatoz."
三色の光が
イェフィヤから炎が、カラロェリから熱が、
同時にそれぞれが人の姿を
“Fiorytes udago vijsee.”
後方からヒオレディーリナの
「魔剣の第一解放、炎が、熱が、風が、人へと変じていく」
ヒオレディーリナでさえ、解放そのものを
まさに、フィアをラ=ファンデアから解放した時と全く同じ現象が起きている。レスティーの言霊が炎、熱、風に溶けこみ、それぞれが優美に人化しているのだ。
ここに集うあらゆる者が
「あれがイェフィヤ、カラロェリの姿なのね。
皆が
「これなら剣を持てない私でも。イェフィヤ、何て綺麗なの。炎の全てが
トゥウェルテナ同様、人化しつつある
代わって、すかさずシルヴィーヌが一蹴する。
「マリエッタお姉様には無理ですわね。よいですか、お姉様。
腕を鋭く振って、レスティーたちのいる方向を指す。
「三振りの
「だって、ほしいものはほしいのよ。それに今のイェフィヤこそが、私の魔術師としての究極の理想だもの。目指すものはね、大きければ大きいほどよいのよ」
シルヴィーヌは完全に
(こんな言葉
しっかり者のシルヴィーヌ、表に出して発する言葉とそうでないものを区分している。
「マリエッタお姉様、
妹二人の応酬はなおも続く。
「ちょっと、仮にも、って何よ。私は正式な第二王女よ。それに第二王女が魔術師になってはいけないという国法でもあるの。どうなのよ、シルヴィーヌ」
しっかりやり返すマリエッタだった。セレネイアは完全に止める時機を
「貴女も苦労しているのね。でも、
セレネイアの肩を軽く叩いたトゥウェルテナが柔らかな笑みを浮かべている。トゥウェルテナの言葉に頷きつつも、セレネイアは全く違うことを考えている。
(トゥウェルテナ殿、本当に不思議な
トゥウェルテナは目の前で人化していくイェフィヤとカラロェリを視て、反則だと言った。
セレネイアもまた目の前のトゥウェルテナを、さらには遠くにいるヴェレージャとフィリエルスを思い浮かべて、反則だと言いたくなっている。
それは明らかに女としての思い、いわば嫉妬に近いものだろう。以前のセレネイアでは考えられなかった感情の
「どうしたのよ。そんなに見つめて。私の顔が気になるの」
あまりに凝視していたのだろう。
「し、失礼いたしました。私はマリエッタとシルヴィーヌを止めてきます」
頭を下げてこの場を離れようとするセレネイアを呼び止める。
「セレネイア、表に出すべき感情はしっかり出しなさい。そうしないと身体が持たないわよ。優しいお姉さんからの助言よ」
大人の余裕か。トゥウェルテナが片目を軽く
「マリエッタ、シルヴィーヌ、いい加減にしなさい。本当に困った子たちね」
三姉妹たちのひと騒動をよそに、既に人化を完了させた
深紅に染まったイェフィヤは三人の中央に位置している。腰まで伸びた長髪が炎と共に踊り、その
イェフィヤの右手に位置するカラロェリは一転して、複数の色を纏っている。今のカラロェリは静の状態であり、低温を示す
イェフィヤの左手、
同系色ながら、
「恐れを
ニミエパルドとケーレディエズもまた眼前の光景に圧倒されている。
「再構築、いったいどのように」
ニミエパルドの唇から言葉が漏れる。
「その方らの力に応じたものになる。どうやら適正はあるようだな」
ニミエパルドもケーレディエズも、レスティーの言葉の意味が全く分からない。できないながらも、もはや人としての領域をはるかに超えていることだけは理解できた。
≪主様、
イェフィヤの
≪よいだろう。そなたの、そなたたちの力を視せよ≫
歓喜に満ち
美の炎がニミエパルドに、美の風がケーレディエズに迫る。二人は恐怖のあまり顔面
「痛みも苦しみもない。身を委ねよ。その方らは炎と風になって、ディーナと共に」
最後の言葉で、まずはケーレディエズの覚悟が決まった。美の風の力が彼女を瞬時に包みこむ。レスティーの言ったとおり、苦痛など一切ない。感じるのは心地よさと、窮屈な肉体の
ニミエパルドも遅れてケーレディエズに
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