第338話:魔剣の使命と暴走
ヒオレディーリナの意識は早々にケーレディエズからルシィーエットへと転じている。ニミエパルドに対する魔術は間違いなく
ニミエパルドが
(ルーの魔術制御がなおも解けていない)
ヒオレディーリナの目はルシィーエットが制御する魔術の
(呪具師を始末したその先で、なるほど。今度ばかりは逃げきれないかもしれないわね)
ヒオレディーリナがいかにも楽しそうな笑みを浮かべている。それはルシィーエットにも明瞭に伝わっている。
≪あんたたちは邪魔だよ。今すぐ魔術を引っこめて下がりな≫
端的に
重層獄炎第五層目は
≪完璧に捉えたよ。覚悟しな≫
標的もルシィーエットの魔術の接近に気づいたようだ。遠く離れた場所で互いの視線が交錯する。
標的が
≪遅いよ。私の魔術は完成している。あの時とは違うんだよ≫
完成には二つの意味がこめられている。一つは魔術発動そのものの、もう一つは魔術の精度と威力の完成だ。
標的の頭上、漆黒の空が瞬時に
≪最終形態
ルシィーエットが
≪同じ
次元を越えて解き放たれた灼青炎が、輝青の空より標的めがけて襲いかかった。
(ルーに任せておくしかないわね。私のやるべきことは)
ヒオレディーリナの視線がニミエパルドを抱きしめたままのケーレディエズに注がれる。少しばかり離れた位置にいようと、二人の会話は耳に入ってくる。
ヒオレディーリナは正気に戻ったであろうニミエパルドの反応の薄さが気に入らないのか、やや顔を
「ニミエパルド、気分はどう。鎧が
不安そうに
「ああ、まるで夢から覚めたような気分だよ。ディズ、私は駄目な男だ。また君を護れずに、逆に君に護られる始末だ」
ケーレディエズはそんなニミエパルドがもどかしく思えたのだろう。両の手で頬を強く挟みこみ、項垂れ気味のニミエパルドの顔を強引にでも持ち上げる。ニミエパルドの視線が流れないように固定する。
「よく聞いて、ニミエパルド。私は強くなりたかったのよ。貴男を護れるほどにね。あの時、私の心からの想いにヒオレディーリナは気づいてくれた。そして、そのための力をも与えてくれた」
ニミエパルドが口を開こうとするところ、首を横に振って制止する。
「あの事件以降、貴男にただ護られるだけの私が心底嫌だった。だって、私と貴男はどんな時でも対等なのよ。どちらか一方にぶら下がるだけの関係なんて願い下げだわ」
ニミエパルドもケーレディエズも等しく
安心していたヒオレディーリナの目が刹那の異変を察知する。
(二人の核が活性化した。まさかこれは。私としたことが
手遅れかもしれない。ヒオレディーリナは割り切りつつ、三振りの
≪イェフィヤ、カラロェリ、
魔力のうねりが宙を揺さ振り、イェフィヤの炎が、カラロェリの熱が、
≪仮初の主様、浸食が始まっている。男が問題です。
イェフィヤが端的に、事もなげに告げてくる。
得てして、最優先すべき使命に逆向する行動をも取らされる。納得できずとも、契約で縛られている以上、意思を優先することも叶わない。
契約を無視してまで
≪まだ駄目よ≫
ヒオレディーリナも端的に返す。言葉の裏側には、いざとなれば自身の手で滅するとの確固たる意思が含まれている。契約からのごく短時間でイェフィヤはヒオレディーリナのおよそを理解している。
(本当に理解し難い生き物だわ。だからこそ、人は面白いのよね。その分、主様も随分と苦労なさっているのだけど)
イェフィヤの笑みはそのまま二人の妹に伝わっていく。カラロェリがまず反応を返す。
≪真珍。良機嫌≫
待ち構えていたのか、
≪姉様、笑ってる場合じゃないの。この男、私が
動かない姉二人に代わって、名乗りをあげた
この時点で、対象が人ならば
≪動了。制風≫
カラロェリの制止の声にも
≪姉様、私は止まらないわよ。だって、私の主様は唯一だもの。あの女もこの女も、どうでもいいわ。契約で私を縛るなど笑止千万よ≫
本心ではイェフィヤもカラロェリも全く同感だ。
イェフィヤが声を送ろうとした矢先だった。
≪
疾風が強風へと変わる。ここから暴風へと転じたら、確実にニミエパルドの核を破砕するだろう。
≪
セレネイアの懇願は
≪うるさい、うるさい、うるさい。私に指図するんじゃないわよ≫
滅多にない現象が起きようとしている。魔剣の暴走だ。
所有者と
破棄が所有者の場合は、
イェフィヤもカラロェリも動かない。いや、動けないといった方が
≪今はその時ではない。やむを得ないわね≫
ヒオレディーリナの右手がしなやかに動き、剣の
≪待ちなさい、ヒオレディーリナ。あの子の
まさに抜刀態勢に入ろうとしていたヒオレディーリナの右手が完全に止まった。意思に反して全く動かない。
≪こんなことができるのは、あの御方を除けば。本当に嫌な女ね。何をしに出てきたの。邪魔すると言うなら≫
≪邪魔などしないわ。
話はこれで終わりとばかりに
≪
一喝をもって
≪フィ、フィア様、どうして、こんなところに。でも、たとえフィア様といえども≫
いくら
不規則なまでに乱れた風の流れの中、ようやく
≪貴女たちもよく我慢できたわね。上出来よ≫
フィアの視線が
≪唯諾≫
≪フィア様の風を感じ取りましたので。手を出さずに待っておりました。私たちではやりすぎてしまいます≫
カラロェリに次いで、イェフィヤが苦笑気味に応えている。
確かにイェフィヤとカラロェリなら
≪そう、賢明ね。あとは私に任せておきなさい。悪いようにはしないわ≫
既に動きはおろか、意思も力も全てを封じられてしまった
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