第336話:それぞれの想いの行方
美しい尾を引く炎が夜空を
(私の炎は、馬鹿みたいな火力勝負じゃないんだよ。その身で受けてみれば分かるさ)
自身で言っておきながら笑ってしまう。ルシィーエットの魔術に対する流儀は何度も述べたとおりだ。
その方向性が変わったのは、いや、むしろ変えられたのはレスティーの試練を受けた直後からだ。レスティーは決して固有魔術に
炎を扱うレスカレオの賢者たる者ならば、自らの魔術
(私も若かったのさ)
ニミエパルドの鎧は炎を防がんと、いっそう強烈な
「ニミエパルド、お願いよ。負の感情を抑えて。いくら
ケーレディエズの
防御の姿勢さえ取っていないケーレディエズにとって、
ケーレディエズは声さえ上げられず、ただ
「問題ないさ。ディーナがいるんだよ」
ルシィーエットの言葉どおり、余波がケーレディエズに及ぶ寸前のこと、三層障壁が同時に立ち上がった。
ルシィーエットの炎に直接相対する一層目は炎で構築されている。二層目は熱、そしてケーレディエズの身体に密着するがごとく風が三層目を形成している。
すなわち、
≪どうして私が一番後ろなのよ≫
大いに不満を漏らす
「ルーの炎の邪魔ね。ケーレディエズ、私の
ヒオレディーリナはルシィーエットの魔術発動と同時、右腕を軽く振り上げたのみで、自ら動く気配さえない。それは沈黙の中でのルシィーエットへの、また三振りの
ルシィーエットも分かっているからこそ、
標的であるニミエパルドのすぐ傍にケーレディエズがいる。ルシィーエットがいくら魔術制御しようとも、ケーレディエズを巻きこまない保証は一切ない。ビュルクヴィストのように、針の穴を通すがごとき
(ルーには無理ね。ある意味、ビュルクヴィストは異常だから)
随分な言われようのビュルクヴィストではある。けなしているわけではない。
ヒオレディーリナにとって、ビュルクヴィストはルシィーエット同様、絶対的な信頼を寄せられる、そして友とも呼べる極めて
(性格は難がありすぎるけど、それも含めてのビュルクヴィストね)
僅かに笑みが
(ディーナ、珍しいね。今日だけで何度目だい。私はね、あんたにもずっと笑っていてほしいと願っているんだよ。
ルシィーエットの想いをよそに、三層障壁に護られたケーレディエズは迷いの
魔術を行使できないケーレディエズから視ても、明らかにルシィーエットの炎が優勢だ。邪気による障壁は炎に
このままでは障壁を抜けてニミエパルドの身体に及ぶは
あの場でケーレディエズも聞いていたのだ。ジリニエイユが淡々と告げた事実を。ケーレディエズはニミエパルドを殺せる者の名を脳裏に刻んだ。その一人が眼前に立ちはだかっている。
(お願いよ。私の大切なニミエパルドをどうか殺さないで)
ニミエパルドは
「ニミエパルド、殺戮衝動に負けないで。貴男は私が護るから」
ようやく意を決したか。ケーレディエズはニミエパルドから距離を置くどころか、接近を試みようと
ルシィーエットは魔術に完全集中している。ケーレディエズに構っている暇などない。ヒオレディーリナは平然と成り行きを見つめたまま、動こうともしない。
「ニミエパルド」
ケーレディエズの絶叫が響き渡る。
なおも三振りの
≪ちょっと、この娘、何を考えているのよ。護ってあげている私の身にもなってみなさいよ。このままだと護るどころか、殺してしまうわ。姉様、助けてよ≫
「ニミエパルド、貴男がずっと私を護ってくれたように、私もまた貴男を護りたいの。あの時まで、私には貴男を護るどころか、自分自身を護る力さえなかった。だから、あんな男に。私はあの人に心から
言葉がニミエパルドに届くかも分からない。それでもケーレディエズは止まらない。全身が斬り刻まれるのも
核が存在する限り、
≪
さすがに
≪障壁を解きなさい≫
強くなりたい。自分自身ではなく、愛する者を護りたい。ケーレディエズの想いを受けて、ヒオレディーリナは自らの血を分け与えた。
ヒオレディーリナの命は絶対だ。瞬時に三層障壁が失せる。
≪姉様、ありがとう。助かったわ≫
末妹の安堵している様子が伝わってくる。
≪無問題≫
カラロェリの後を引き取ってイェフィヤが締める。
≪姉として当然のことをしたまでよ≫
突然、全ての障壁が消えたことでケーレディエズを
「ああ、ニミエパルド、待っていて。今すぐに助けるから」
ジリニエイユに聞かされて知っている。ルシィーエットという賢者が最大最強の魔術は放ったが最後だ。生存確率は皆無、
「それでも構わない。ニミエパルドと一緒に死ねるなら」
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