第332話:ヒオレディーリナの血の効力
ヒオレディーリナの話を聞き終えたルシィーエットとニミエパルドが、あまりにも対照的だった。共に
ケーレディエズだけが手持ち
「ま、まさかそのようなことが、
ニミエパルドはヒオレディーリナの告げた事実を何とか理解しようと努めている。それでも思考が追いつかないのだろう。執拗なほどに
「ヒオレディーリナ、貴女はどうしてケーレディエズの心に制約を課したのです。それも二つもです。あの時、貴女は
言葉が詰まる。これまで
ヒオレディーリナにしても、ニミエパルドの気持ちは十分に理解できる。二人が何かしらの事件に巻きこまれて命を落とした、と風の噂で聞いた際には、何の感情も起こらなかった。
人とはそういうものだ。とりわけ、限られた
それが何の因果だろう。数百年後、よもや
「そうね。お前の存在を知っていたなら別の制約を選んでいた。それも含めて運命だったのよ。お前もルーも気になっているだろうし、特別に教えてあげるわ。私がその娘に課した二つの制約が何であるかを」
ヒオレディーリナが
奏でる音色は強くもあり、弱くもあり、あるいは激しくもあり、穏やかでもある。それぞれの特性が遺憾なく発揮されているとも言えよう。音色が止まった
「いい子たちね。しばらくの間、そのままで」
ヒオレディーリナがここに来て、初めて大地へと降り立つ。静かに足を下したヒオレディーリナを内包する形で、三振りの
ヒオレディーリナの前方に
三振りの
威風堂々たる姿はまさしく
「美しいな。これがディーナの真の魅力か。だが、俺が初めて出逢ったのは二十年も前だぞ。その頃と全く姿が変わっていない。どういうことだ」
独り言のように呟いているのはザガルドアだ。
「セレネイアお姉様、どういうことなのでしょうか。人が二十年も全く変わらない姿を維持できるなど可能なのでしょうか」
十五歳にすぎないセレネイアは、問いに答えられるだけの知見を有していない。年齢や肉体を偽装する魔術は確かに存在する。それらを行使すれば可能だろう。
「私には分からないわ。特有の魔術を用いれば可能かもしれませんが」
その先を言う必要はない。魔術に関してはセレネイア以上に原理原則を理解しているマリエッタだ。
「魔術が引き起こす事象は一過性にすぎません。やはり直接、お尋ねするしかありませんわね」
明確な答えが出ない以上、議論したところで意味はない。マリエッタは早々に思考を切り替える。この判断の早さがマリエッタの長所でもある。
眼前で繰り広げられている三振りの
マリエッタのみならず、ここにいる全ての者が、剣などの武具は手に持ってこそという固定観念に
無論、誰にでもできる芸当ではない。むしろ、大半の者が真似できないだろう。それを理解したうえで、ザガルドアをはじめ十二将たちは可能性を即座に
「何だよ、あれは。あんなものを見せられたら、できないと分かっていても試したくなるじゃないか」
この中にあって、最も魔術を苦手とするディグレイオがぼやいている。
「
隣に立つトゥウェルテナも同様、ヒオレディーリナの戦いに魅せられている。
「あの者は明らかに剣士、その
すかさずシルヴィーヌが尋ねかける。
「グレアルーヴ殿、あの方は未だに剣を手にしておられません。私には
ここに集っている者はヒオレディーリナの真なる姿を知らない。姿を現して以来、ヒオレディーリナは魔術師
「シルヴィーヌ第三王女の疑問はもっともだ。陛下もセレネイア第一王女もヴォルトゥーノ流に身を置かれる使い手でしたな。ならば、ご存じであろうか」
ザガルドアは俺に聞くな、とばかりに一度だけ首を横に振ると、すぐさま視線をヒオレディーリナに戻す。それだけ釘づけ状態なのだ。
セレネイアも同様、知らないと小声で答えるのみだった。そもそもセレネイアは本流ではなく、下位流派のカヴィアーデ流剣士であり、魔剣を握らずして自在に使いこなすような剣術を知るはずもない。それを剣術と呼べるのかはさておきだ。
「ヴォルトゥーノ流には
確信をもったグレアルーヴの言葉に最も
「グレアルーヴ、詳しく話せ」
ザガルドアに続いてセレネイアも言葉を発していた。
「秘奥義の使い手こそヒオレディーリナ様ということなのですね。私も詳しく知りたいです」
マリエッタとシルヴィーヌも顔を見合わせて大きく
「随分と詳しいではないか。獣人族の男よ、その方が生きてきた
ヒオレディーリナはザガルドアたちに僅かに視線を走らせ、小さくため息をつく。
(あれこれと
「ニミエパルド、外野がうるさくなってきたわ。早々に話を進めるわよ」
あれほどまでに強烈だったニミエパルドの殺気が完全に消え去っている。ヒオレディーリナは全く意にも介していない。殺気があろうがなかろうが、何の支障にもならないからだ。
(明白な殺意を消してくれてよかったよ。殺意ある者に対するディーナの処断は
胸を
「ルー、しばらくつき合って。そのうえで、どうするかを決めるわ」
ルシィーエットに異論はない。ヒオレディーリナとの共闘において自由が鉄則、それでいて決断を下すのは常にヒオレディーリナの役目だ。
ルシィーエットは視線を合わせ、軽く頷いてみせる。戦わずして終われるなら、間違いなくそれが最善なのだから。
「己が求める強さに達する。制約の一つ目よ。この娘は心の奥底で弱い己を呪っていた。弱かったからこそ、あのようなことになってしまったと心底悔いていた」
そうではない、とはあえて告げない。ヒオレディーリナなりの優しさなのだろう。
強さと言ってもいろいろある。その定義は実に曖昧だ。肉体的な強さ、精神的な強さ、この二つだけでも相当に異なる。ケーレディエズが望んだ強さとは主に後者であり、誰かに護られる自分ではなく、誰かを護る自分であるための強さだ。
「一助として私の血を分け与えた。私だけが有する血の効力、獣人族の
ニミエパルドが驚きの表情を浮かべ、即座に消し去ったのを見逃すヒオレディーリナではない。
「心当たりがあるようね。当然ね。お前はこの娘の
覚悟を決めたニミエパルドが肯定と共に言葉を
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