第320話:聖域の管理者
モレイネーメの語りがようやく終わった。
「気づいたら、私はここにいたわ。あの不思議な神のごとき力が何だったのか。今でも分からないままよ」
ゼーランディアとガドルヴロワは混乱の
今の今まで信じていたことが全て
唯一、救いとも言えるのは、姉弟が想う最愛の者がモレイネーメだったことだろう。だからと言って、
ビュルクヴィストは両の
ジリニエイユに
「『我が子よ、この永遠なる
氷棺に封じられていたからこそ、モレイネーメは
そうなれば、目の前に立つ四人は狩るべき
(そうなる前に、私ができることは)
モレイネーメは意思を決めている。
ジリニエイユの力によって、既に身体の半分以上が
「何を
一方で
「真実を知った以上、私たちにお母さんが殺せるはずがないでしょう。そんな残酷なことを言わないでよ」
ゼーランディアの言葉とは
(ごめんね。辛い想いをさせるわね。私に残された時間は尽きようとしているわ。私が
二本の剣を両手に握り締めたガドルヴロワの瞳には涙が浮かんでいる。想いは姉と同じだ。実の子供のように育ててくれたモレイネーメを、どうしてこの手で殺さなければならないのか。
「母さん、貴女の命を奪うこの罪は、私の命をもって償います。すぐに後を追います」
ガドルヴロワの目は、モレイネーメの体内に定着しつつある核をはっきりと視認している。大きく振り
「
ゼーランディアの絶叫も届かない。モレイネーメは
「愛しているわ、ゼーランディア、ガドルヴロワ。さようなら、私の可愛い子供たち」
ガドルヴロワは
「お母さん、お母さん」
走り出そうとするゼーランディアを
「駄目だ、ゼーランディア姉さん。母さんの様子が、おかしい」
核が破壊された以上、身体の崩壊は
「どういう仕組みなのですか。信じられません」
場違いな
「ビュルクヴィスト様、いったい何が起こっているのでしょうか」
取り残された感の強いエランセージュが問いかけてくる。
「え、ええ、私も全て理解できたたわけではありません。できる範囲でエランセージュ嬢に説明しましょう」
エランセージュにとって、神のごときレスティーは別格として、ビュルクヴィストもそれに近しい存在だ。
ビュルクヴィストにさえ理解できないことがあるのだ。それを知って、内心で驚きつつ、安堵もするのだった。
「エランセージュ嬢は、何だか楽しそうですね」
顔に出てしまっていたのだろう。エランセージュは慌てて首を横に振っている。
「まあよいでしょう。ガドルヴロワの二本の剣が、モレイネーメの体内に埋め込まれた核を寸断しました。視えていましたか」
今度は首を縦に振る。エランセージュに視えていたのはそこまでだ。
「黒き靄が
モレイネーメを
ゼーランディアもガドルヴロワも、何が起こっているのか理解できず、モレイネーメ同様に立ち尽くすばかりだ。
「ビュルクヴィスト様、どういうことなのですか」
まだ
ガドルヴロワも同様、二本の剣を手にしたまま、ビュルクヴィストに
「モレイネーメの体内で魔力循環が起こっています。私には理解できませんが、事実なのです」
ゼーランディアが大きく息を
ビュルクヴィストが
「う、
黒き靄の完全消失は、すなわち
人としての
「ゼーランディア姉さん、どうすれば、どうすれば、母さんを生き返らせる」
私が聞きたいぐらいだとばかりに、ゼーランディアが激しく首を横に振っている。
やはり、最後に頼りになるのはビュルクヴィストしかいない。ガドルヴロワは
「考えられることは唯一です。我々の理解を越えた魔力がモレイネーメに注がれている。それも外部からです。私が知る限り、これほどまでの力を振るえる」
言葉を
目が
「何事ですか。私は何もしていませんよ」
珍しくビュルクヴィストが冷静さを
≪案ずるな、ビュルクヴィスト。そなたは
レスティーの姿はない。声だけがここにいる者たちの脳裏に響き渡る。
神の姿が拝めないことで、エランセージュが
≪レスティー殿、このまま何もしなくてよいのですね。今の状況は、私の手に負えませんよ≫
今度はレスティーではない。別の声が語りかけてくる。
≪我が神が案ずるなと
その声は等しく他の者にも伝わっている。モレイネーメを除く三人の視線が
イエズヴェンド永久氷壁内を美しく彩る
≪子供たちよ。
「ど、どうして、レスティー殿が。いえ、レスティー殿ではありません。それにしても」
ビュルクヴィストが即座に魔力の目をもって、その人物を
「立つがよい、我が子エランセージュ。そなたの成長を嬉しく思う」
エランセージュの故郷たるシャラントワ大陸の伝わる伝承さながらに、銀と青を
纏う魔力質からして、全くの別人だった。何よりも、その人物は実体ではなかった。
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