第318話:香術師の真の力
「
ジリニエイユの顔には、あからさまな
モレイネーメも、姉弟がどうなるのか、想像するまでもなく理解できた。
(ああ、ゼーランディア、ガドルヴロワ、何もしてあげられない無力な私を許して)
「他の六人は
目の前に立つのはクヌエリューゾだ。ゼーランディアとガドルヴロワには、彼の姿がモレイネーメに見えている。
三種の香気は、霧に紛れて同時に放たれていた。
幻視香は吸い込んでから、その効力が発揮されるまでに相応の時間を要する。そして何よりの特徴がある。
そして、これからクヌエリューゾが用いようとしている香気もその一つに含まれる。
姉弟にはクヌエリューゾの言葉も、モレイネーメが話しているがごとく脳内で変換されている。幻視香に
「残念だわ。せっかくお前たちと遊べると思っていたのに。どうやら、次で終わりみたいね」
モレイネーメの言葉の意味が理解できない姉弟は困惑しきりだ。
次第に幻視香の威力が増していく。
理性ではモレイネーメではないと思っているゼーランディアだ。その意識が
ガドルヴロワは既に
「お前たちには
クヌエリューゾがいつものごとく、切り札の一枚を切ろうとする。そこにすかさず
≪クヌエリューゾ、それを使うことは許さぬ。その者たちの肉体を一切
攻撃が来る。そう思った瞬間、突然のことクヌエリューゾが
≪我が神ジリニエイユ様、
「お母さん、どうしてしまったの。それに、私たちに死になさいって」
意味が分からないとばかりに悲しげに見つめてくるゼーランディア、ガドルヴロワも同じだ。いや、それ以上に動揺が激しい。
「母さん、
普段のガドルヴロワであれば、決してこのような考えには至らなかっただろう。既に幻視香が全身隅々にまで行き渡り、彼を
≪言ったとおりだ。それさえ達せられるなら、いかようにでもするがよい≫
神の言葉をその身に浴び、クヌエリューゾは額を大地に
「我が神からのお許しを頂戴いたしました。これを
今度はクヌエリューゾの左手が静かに動く。姉弟の目に映っているのは、モレイネーメが唇を
「お母さん、
ゼーランディアの悲痛な叫びは通じない。
当然のことだろう。何しろ、相手はクヌエリューゾなのだ。今のクヌエリューゾは新しい香気を試したい、その一心で
「お二人がどこまで耐えられるのか、見せてください」
クヌエリューゾの言葉は、モレイネーメの言葉として変換され、二人に伝わる。
「お前たちはどこまで持ち
映し出された映像を前に、モレイネーメには絶望しか残されていない。最後の気力を何とか振り
「やめて、お願い、やめて。あの二人を殺さないで。貴男の言うとおりにするから」
さすがにこれにはジリニエイユも驚いたか、
「意思の力ですか。泣けてきますね。それほどまでに、あの二人が
ジリニエイユは理解不能だとばかりに首を横に振る。そして、
「残念ですが、貴女のご期待には
「そこでよく見ているのです。愛する者の手にかかって、死にゆく子供たちの姿をね。どうです。私は
「どこに、どこに、慈悲があるというの。ふざけないで。人を実験体とみなすお前に、親子の愛情など分かるはずもない」
空気が一瞬にして変わった。ジリニエイユを包む魔力とともに、その肩が
「お前のような小娘ごときに何が分かる。最愛の者たちを何もできず、目の前で奪われていった。この私と同列で語るなど笑止千万」
(何なの、このジリニエイユという男は。全く理解できない)
最愛の者を殺された
明らかに
≪クヌエリューゾ、何をもたついている。私は忙しい。
怒りは衝撃波と化し、遠く離れたクヌエリューゾにまで襲いかかっていった。
神の
「我が神がお怒りです。お二人につき合う時間がなくなりました。残念ですが、ここまでです。もうよいでしょう。終わりにします」
クヌエリューゾは左腕を
視界でも
高位の香術師が
香気は種類によって色もあれば、
クヌエリューゾが必殺の際に用いる絶対的な香に、
それほどまでに強烈な威力を誇る即死香
その弱点を魔術を用いることで消し去ってしまう。だからこその数少ない高位香術師であり、その一人こそがクヌエリューゾだった。
そして、クヌエリューゾが二度にわたって用いていたのが、即死香を改良した
「一度目の香で既に動けなくなっているでしょう。我が神のご命令どおり、お二人の見かけの肉体は一切
即死香が苦痛を感じる間もなく、一瞬で死に至らしめる香に対し、毒葬香は呼吸器のみを毒で浸食、長時間にわたって苦痛を与え続ける。その挙げ句、最後に命を奪うという非人道的な香だ。
姉弟の周囲は、もはや毒葬香によって満たされている。逃げ場などどこにもない。もがき苦しみ出している姉弟の姿を、クヌエリューゾは
「母さん、どうして、どうして」
ガドルヴロワが
ゼーランディアも毒に
「お母さん、苦しい、助けて、お母さん」
ゼーランディアとガドルヴロワ、二人の
詠唱の
姉弟が耳にした最後の言葉は、奇しくもクヌエリューゾのそれと同じだった。
「死ね」
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