第314話:それぞれの戦場における転換点
無事、主物質界に戻って来られたエレニディールは自分の身体を見て、思わず
「やはり、この姿があってこそ安心できますね」
肉体に比重を置く主物質界で生きる者たちの
サリエシェルナの魂を収めた
突如として
「
言葉による応答はない。その代わり、即座に攻撃が来る。魔力波を瞬時に
(魔力が乱れていますね。怒りからか、
エレニディールが最優先すべきは、
幽星界の秘宝によって
エレニディールはサリエシェルナの魂を肉体に戻すと心に決めている。絶対に
エレニディールは
(用意周到なジリニエイユのことです。奥の手を隠しているに違いありません。油断はできません)
その一方で、ジリニエイユの魔力は先ほどから乱れたままだ。この状態で魔術を行使したとしても、期待する効果はさほど望めないだろう。
(
一対一で勝負したとして、ジリニエイユには勝てないだろう。己の力を過信するなど、
冷静に判断して、魔術のみの勝負なら互角かもしれない。それ以外の力は圧倒的にジリニエイユが上だ。
彼には、ゾンゴゾラムの残した禁書がある。オペキュリナの
そもそも、ゾンゴゾラムの禁書は一冊だけではない。さらには、
(禁書を、
エレニディールの
一方のジリニエイユはというと、意識を多方面に向けていることが裏目に出てしまっていた。
まずは己の内なるもの、すなわち
さらには、
意識下で吸い上げた情報の
ジリニエイユは
彼は間違いなく切り札として取っておくべき存在だ。古代エルフ王国の血を受け継ぎ、当代三賢者の一人でもある。何よりも、レスティーの弱点になるかもしれない主物質界の人族なのだ。
さらには、幽星界からサリエシェルナの魂までも持ち出されてしまった。
いずれも、いかなる手段を用いたのか、さすがのジリニエイユも
(何たる
思考を巡らせながらも、思い当たるのは一つだ。心のどこかで想定していたことではある。
(あの
≪だから言ったであろう。早々に排除しておけばよかったのだ。最大の障壁があの男であろうことは分かりきっているではないか≫
簡単に言ってくれる。ジリニエイユの率直な想いだ。
≪ならば、
正論を叩きつけられ、
ジリニエイユにしてみれば、単純この上ない
少し落ち着いたか、語りかけてくる声音が変化している。
≪このような状態では到底勝てぬ。だからこそ、復活を急げと言ったのだ。それも今となってはな。
一つだけ残されている。
あの時、
≪残された時間は少ないぞ。このまま手をこまねいていては、あの男に狩られるだけだ。ジリニエイユ、覚悟を決めるがよい。貴様には最大限の敬意を払い、最後にしてやる≫
≪よかろう。覚悟は決めよう。その前に、
ジリニエイユは多方面に展開していた全ての意識を
これによって、エレニディールにのみ集中できる。反面、各戦場における状況分析はもとより、
この変化は残った
そのうえ
(魔力の乱れが止まりました。魔力が均一化され、増大していきます)
ジリニエイユの中で何かが変わったのだ。均一化された魔力には、明確な殺意が
(ジリニエイユ、本気ですね。ならば、私も覚悟を決めなければなりませんね)
エレニディールにとっても、まさに正念場だった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
二つの戦場でも、転換点とも言える動きが生じていた。
まずは、イエズヴェンド永久氷壁の最下層からだ。
モレイネーメを前にしたゼーランディアとガドルヴロワ姉弟は
「何が言いたい。お前と問答している時間などない。言いたいことがあるなら、はっきり言え」
我慢の限界を迎えつつあるガドルヴロワが声を荒げる。
「その
「モレイネーメ、何が言いたいのですか。弟を
圧倒的にゼーランディアが冷静さを保っている。これはゼーランディアとガドルヴロワ、二人が向けるモレイネーメへの愛憎差でもあるだろう。
モレイネーメは姉弟の育ての母でもあるのだ。
戦乱で両親を失った幼い二人は、
モレイネーメもまた幼い頃に両親と兄妹を失い、
理由はともあれ、この奇妙な親子関係は、姉弟が育ての母でもあるモレイネーメに殺害されるまで続くことになる。
「私は貴女に感謝しています。幼い私たち姉弟を拾って育ててくれた。生きる
ガドルヴロワは怒り任せな部分が目立つものの、彼もまたゼーランディアと同じだ。少なくとも、モレイネーメの教えが間違っていなかったことを証明している。
ひたむきで
「冷静に聞くだけの理性を残しているようね。今こそ、あの時何が起こったのか、その全てを伝えましょう」
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