第315話:モレイネーメの過去
全てを伝えると言ったものの、その時間はあまり残されていない。完璧に説明し終えるのは難しい。沈黙の中、モレイネーメは頭によぎった考えを振り払う。
(私に残された時間は
「お前たちが来るのが遅かったせいで、時間がないかもしれないわね。だから、よく聞きなさい」
ゼーランディアもガドルヴロワも意味がよく理解できていないようだ。それでよいと想いながら、モレイネーメはようやく語り始めた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
三頭立ての
他にも
八人は領主に内密の依頼だと召喚された。
一年は優に遊んで暮らせるであろう大金をぶらさげられ、依頼を受けるための条件は奇妙だったものの、一も二もなく引き受けた。いずれも大金に目が
領主が告げた条件は四つだ。
決して馬車内にいる人物の顔を見ないこと、その人物の言葉に絶対従うこと、何者かに襲撃された場合、その人物の命が最優先であり、決して死なせてはならないこと、そして最後が護衛に当たる八人のうち誰一人として死んではならないこと、だった。
領主からは、誰か一人でも欠けたら、連帯責任として報酬の支払いはないと
八人からすれば、
死にたくないのは誰もが同じだ。
ゼーランディアとガドルヴロワ姉弟は出発直後から違和感を
ゼーランディアの魔術をもってしても破れないほどの強固さを秘めている。
≪ガドルヴロワ、この依頼、何か変だわ。うまく言葉にできないけど、何もかも異常よ≫
≪姉さんは依頼を放棄し、今すぐ戻るべきだと考えているね。もう無理だよ。あの六人にも迷惑をかけることになる。何より、あの大金が手に入れば、母さんを≫
弟からの返答は予想したとおりで、また
しかも、母のことを持ち出されては、ゼーランディアもそれ以上のことは口にできない。意外に
(何があろうとも、私は私の使命を果たすだけ。ガドルヴロワ、貴男だけは必ず
既に姉弟が護衛の
ゼーランディアとガドルヴロワ、
物音一つしない。静寂に包まれた家の中に、人の気配は全くない。
「当然といえば当然ね。あの子たちももう立派な大人、よもや傭兵などという危険な仕事を選ぶとは思わなかったけど」
引き取るつもりなどなかった。ただ一時の
だからこそ、二人には生きていくうえで必要な知識と力を
今や姉弟は
封筒に入れられた手紙だ。貴族が使うような上等な紙が用いられている。そのうえ、ご丁寧なことに真っ赤な
「どうして、クレドゥアド家の封蝋が。しかも、解封された上から、魔術で再度封蝋されている。この魔力は、ゼーランディアのものね」
クレドゥアド家はこの周辺地域を治める領主だ。嫌な予感しかしない。
モレイネーメはゼーランディアの施した魔術をいとも簡単に解除すると、中の手紙を取り出し、一読した。
「急がなければ。間違いなく、何かが起こっている」
モレイネーメは
「これは、これは。ようやくのご到着ですか。お待ちしておりましたよ」
モレイネーメが魔術転移門から降り立つ。目の前には、領主ことテルゼイ・クレドゥアドが見上げる
部屋の
「テルゼイ、この手紙はいったい何です。説明してもらいましょうか」
「はてさて、何を言っているのか、私にはよく分かりませんね。ここに書かれている内容に
「四つの条件よ。護衛対象の
まくしたてるモレイネーメを、テルゼイが興味なさげに眺めている。
「聞いているの、テルゼイ」
鼻を鳴らしながらテルゼイが言葉を発する。
「つまらないですね。モレイネーメ、貴女はもっと理知的かと思っていましたが。この程度とは、がっかりですね」
モレイネーメは衝撃を受けていた。明らかに様子が変だ。
普段のテルゼイは優秀な領主とは言い
「テルゼイ、貴男、いったい」
強引に
「私はね、
テルゼイの雰囲気が一変した。
「貴男、テルゼイではないわね。誰なの。その身体に
突如
モレイネーメは
「レグド・クルシュ・エ・ザイリエ
水ここに
我に
動けないのか、それとも動く必要がないのか。テルゼイは不敵な笑みを浮かべたまま、モレイネーメを見つめるのみだ。
短節詠唱は即座に
「テルゼイの身体を返してもらうわ。
モレイネーメは
大気に
今は
氷柱をもって、
「私の魔術をその身に受けた気分はどうかしら。一刻も早く、テルゼイを解放した方が貴方の身のためよ。次は容赦しないわよ」
テルゼイの眼光が鋭さを増していく。
四本の氷柱はテルゼイの点結を正確に穿ち、動きを封じている。相当の痛みがあるはずだ。にも
その笑みが
「私の身の上まで案じてくれるとは。ああ、誠に
あまりの痛みに気でも触れたか。モレイネーメは油断なく、縫い留めている氷柱に魔力を加え、形状を変化させていく。
「それは奇遇ね。私も愉快だわ。貴方には一切手加減する必要もなさそうね。まずは四肢を切断してあげるわ」
極細の氷柱が厚みを増し、みるみるうちに巨大化していく。
「
嘲笑はそのままに、テルゼイが吐き捨てる。
「遺憾ですって。その状態で、よくもたいそうな口が
テルゼイの表情が落胆一色に染まった。
「何も分かっていないのはモレイネーメ、貴女ですよ。気づかなかったのですか。貴女のこの
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます