第300話:セルアシェルの意表を突く攻撃
セルアシェルは先ほどから微動だにせず、深い呼吸を繰り返している。
一時的とはいえ、師として修業をつけてくれたルブルコスの言葉が思い出される。
「お前は様々な魔術を行使できる反面、図抜けたものが一つもない。かえって、それが
指摘以前の問題として、セルアシェル自身もとうに気づいている。器用貧乏とよく言われたものだ。
修業期間中、ルブルコスの指導は
忙しい
その甲斐あってだろう。トゥウェルテナは
一方でセルアシェルはカイラジェーネとの戦いの
(トゥウェルテナに負けていられないものね。先ほどとは違う私を見せてあげるわ)
十二将で最も仲のよいトゥウェルテナに先を越されてしまっている。
二人して十二将の落ち
あくまで上位三人と比較して、さらに筆頭ザガルドアことイプセミッシュを除けば、ごく限られた条件下においてやや力が
一向に気にしていない、と言ってしまえば、やはり
言葉の暴力、とりわけ
心ない言葉にセルアシェルが人知れず泣いている時、決まって彼女の
セルアシェルは
「行きます」
合図が来た。
ノイロイドとエヴェネローグが
二人は第八騎兵団の団長と副団長、第六騎兵団同様、弓を主な武器とする。二団の差は弓の特性だ。
第六騎兵団団長ケイランガが有するプルフィケルメンに代表されるように、彼らは全長二メルクを超える
二人が同時に
「セルアシェル殿、どうか安心して詠唱を」
そこでノイロイドの言葉は途切れる。あまりに予期しない出来事が起こったからだ。
「な、何を」
セルアシェルの武器は言うまでもなく魔術であり、行使には詠唱が絶対不可欠、もはや常識でもある。二人は詠唱を
まさに戦いの
笑みを浮かべている。
(ええ、私も予想外でしたよ)
そして、もう一人だ。
隠密兵団団長ディリニッツは、こちらも多分に
ディリニッツにとって、セルアシェルは頼れる副団長かつ
「馬鹿な。どういうつもりだ。
ゼーランディアによる魔術結界はなおも有効だ。
「今すぐに結界を解除しろ。私だけでよい。向こうに行かせてくれ。頼む」
(
ディリニッツはそれどころではない。
操影術も
「魔術師たる者、常に冷静であれ。ディリニッツ、今の貴男は
「一人で馬鹿みたいね。何をやっているのよ」
「分かっていないのね。貴男はセルアシェルの何を見てきたの」
今の状態のディリニッツには、
もう一人、対照的なソミュエラはため息をつきつつ、やれやれ、この男は、といった表情で静観を決め込んでいる。
「私のどこが馬鹿だと言うのだ。セルアシェルは俺の可愛い部下だ。団長として護ることは無論、無茶を止めるのも当然だろう」
ディリニッツはヴェレージャの揺るぎない、それでいて悲しみと
ヴェレージャは視線を
「いつまで見つめ合っているつもりかしら」
援護は意外なところから飛んでくる。言葉を発したのはゼーランディアだった。
まるで
ゼーランディアは、敵だからという理由で魔術結界を
「あの娘、強いわよ。あれしきの
多方面から注目を集めるセルアシェル、彼女はいったい何をしたのか。合図をもって、魔術詠唱に入る。皆が等しく、疑う余地なく思っていた。
一呼吸目で、セルアシェルの体表面が純白に染まっていく。
二呼吸目で、純白の中に特定の色が溶け込んでいく。
そして、三呼吸目だ。色が両腕を伝って、
ここにセルアシェルの準備は整った。
ここまではよい。詠唱のための準備だと誰もが思うだろう。
結果は大きく異なる。
セルアシェルは放たれた矢のごとく、
純白に染まった全身から
肺いっぱいに冷気を取り込んだ目的は、体内の魔力と
活性化した魔力は体内の冷気を二層構造の
生きるために殺す。その意思をもって、
「それをさせる我らではない」
意表を突かれたものの、ノイロイドもエヴェネローグも
ノイロイドの魔弓はジョナディアレ、エヴェネローグのそれはゴルディダウネ、いずれも固有魔術が付与された
ハクゼブルフトたちの
二人の魔弓は魔術付与された矢と組み合わすことで真の威力を発揮する。だからこその業物なのだ。
二人の狙いは定まっている。セルアシェルを排除せんと迫る粘性液体の鞭だ。一本ではない。無数に伸びてくる。
「数など問題になりません」
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