第301話:三術を使いこなすには
指が静かに離れ、つがえた矢が放たれる。高速で
弾け飛んだセルアシェルは、既に
左右の攻撃のみを、と頼まれている。真正面からの攻撃を回避する
「アグ・ニディ・レーヴェ」
ノイロイドが先行する。
矢に付与された魔術を解放するための
即時起動、さらに速度を増した矢がたちどころに分裂、その全てが
かたや、エヴェネローグも言霊を解放する。
ノイロイドの矢とは全く異なる特性を有する。
「ディ・ヴィエ・パネゼ」
粘性液体表面を
「
エヴェネローグの自信たっぷりの言葉にノイロイドも
(あの魔力波長、なるほど、そういうことですか。これはこれは、面白いことになっていますね。三姉妹、いえ、親子孫といったところでしょうか)
声には出さないものの、自然と表情に現れている。
「ビュルクヴィスト様、またよからぬことを考えていらっしゃいますね」
横顔を
ビュルクヴィストは他者に自身の思考、感情を
彼女の極めて
「な、何を言っているのですか、全くエランセージュ嬢は。よからぬことを考えているなど、あり得ませんよ」
(エランセージュ嬢は不思議な魅力を持っていますね。人の
その考えは振り払う。今ここですることではないし、すべきことでもない。
「二人の矢に付与された魔術でしょうか。
ビュルクヴィストは
「よく分かりましたね。では、エランセージュ嬢に問いますよ。二人の矢に魔術を付与した者は何人ですか」
ビュルクヴィストはあえて聞いている。今のエランセージュなら見分けられると確信したうえでだ。
「付与者は一人です。矢の効能は異なりますが、いずれからも同じ魔力波長を感じます」
ビュルクヴィストは
「エランセージュ嬢、立派に成長しましたね。それに、あの彼女が体表面に
セルアシェルの方を見やりながら、これもまた確信をもって
ビュルクヴィストからすれば
「はい。この戦いの直前です。ふいに訪ねてきた彼女が言ったのです。動きを一切
その時のやりとりを思い出したのだろう。エランセージュは苦笑を浮かべつつ、言葉を続ける。
「私の知識の中で双方を
黙したまま、目だけで先を
「一方のみなら、という条件で二種の魔術を教えました。ただ、私が扱えるのは前者のみです。後者は知識として持っていますが、恐ろしくて行使したいとは思いません」
エランセージュの指摘どおりだ。
氷結の魔術を極めていけば、やがてそこに行き着く。絶対に砕けない氷を全身に纏う。すなわち、ビュルクヴィストがフィヌソワロの里でクヌエリューゾと対峙した際、オペキュリナの託宣から身を護るために行使した魔術こそだった。
ビュルクヴィストはエランセージュの言葉に納得しつつ、独り言のように呟く。
「彼女、セルアシェル嬢でしたか。貴女から教わった二種の魔術を組み合わせ、さらには足りない分を補うために」
不思議に感じていた。セルアシェルは間違いなく体術を使っている。その内容が問題なのだ。
(粗削りではありますが、
ビュルクヴィストの思考をよそに、セルアシェルの戦いはなおも継続している。
ノイロイドとエヴェネローグ、二人の矢は想定どおり、いや上回るほどの効力を発揮し、粘性液体の鞭をことごとく無害化していく。
無害化、すなわち焼き尽くすまで、矢に
残念ながら、ラディック王国には
カランダイオを団長とする宮廷魔術師団が、実は王国に
第六、第八騎兵団はとりわけ大きな問題を
それが断たれるということは、残された手段、弓を殴打のための武器とするぐらいしかない。
「セルアシェル殿を
セルアシェルは全身を凍結させた状態で凍土を
魔術でたとえるなら、
「見守りなさい。セルアシェルも成長しているのよ。貴男の知らないところでね」
ヴェレージャの一言で一気に熱が
「済まない。私としたことが、冷静さを欠いてしまった」
セルアシェルの魔術は、単体ではヴェレージャやディリニッツに遠く及ばない。だからこそ、たゆまぬ努力を積み重ねてきた。
一つの魔術を複数に分解する。実に
ルブルコスが修業と称してセルアシェルを選んだ理由がそこにある。ツクミナーロ流継承者たる彼は魔剣士であり、剣術、魔術、体術の三術を自在に組み合わせることで最強の座をほしいままにしている。
セルアシェルはどうか。魔術は高位の一歩手前か。剣術はディリニッツと同程度、つまり実戦ではほぼ役に立たない。体術は
セルアシェルは修業中、ルブルコスに
この三術を組み合わせ、さらにそれぞれに異なる魔術を付与することで力を増大させられないかと。
ルブルコスは笑いながらも、真剣に答える。
「面白いが途方もない考えだ。今のお前では無理だな。もし、それを
この短期間で三術を同時に極めるなど到底不可能だ。セルアシェルも理解している。だからこそ、最も得意とする魔術を最優先に、剣術と体術は必要最低限、そこに上乗せするための魔術だけを突き詰める。方針が定まった以上、猛特訓あるのみだ。
セルアシェルには初歩的な剣術、体術を学ばせるだけでも時間が足りない。そこでルブルコスが目をつけたのがグレアルーヴだった。具体的に言うなら、グレアルーヴが主な武器とする爪と脚力だ。
グレアルーヴに比べて、あまりに
一計を案じたルブルコスは、
ソミュエラが
セルアシェルと同じく、ルブルコスから修業をつけてもらっていたソミュエラにとってみれば、まさしく青天の
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