第299話:国を越えての共闘と友情
セルアシェルは視線を変えることなく、静かな口調でノイロイドとエヴェネローグに告げる。
「お二人にお願いがあります。私の左右にきた攻撃のみ
なぜ左右のみなのか。意図は分からない。仲間である彼女の初めての頼み事だ。問い返すなど
「承知した。
ノイロイドの言葉に重みを感じる。セルアシェル自身、まさかゼンディニア王国以外の者、とりわけ十二将以外の者と共闘するなど考えもしなかった。不思議な感覚だ。
(これもまた縁というものなのでしょうね)
一方で、ブリュムンドも慎重に出方を
直上より豪快に
一つだけ問題がある。一撃必殺のためには、身体を構築する粘性液体を全て
ブリュムンドは
(セルアシェルを中心に弓使いの二人が後方に控える三角陣、魔術詠唱に問題はなさそうですね)
セルアシェルが共闘しているなら、こちらも同じくだ。粘性液体を根こそぎ奪う。その
「ハクゼブルフト殿、ペリオドット殿、奴を
二人共に
戦いを始めて以来、共闘らしきものはなかった。十二将二人の力がそれほどまでに圧倒的だったからだ。
ここにきて、初めて頼られる嬉しさにハクゼブルフトもペリオドットも身体が
「ブリュムンド殿、我らにお任せを。確実に
すかさず、二人が魔槍を構える。その名のとおり、ハクゼブルフトは当然のこと、ペリオドットの槍にも魔術が付与されている。
ハクゼブルフトの槍はクレラスピク、全長が四メルクにもなる
魔槍には
「あちらよりも先に片づけます」
余計な心配と思いつつも、やはりセルアシェルが気にかかる。言葉を発するなり、ブリュムンドが一気に加速に入る。
魔術ではない。純粋な脚力のみだ。足場の悪い
ハクゼブルフトもペリオドットも準備万端だ。ブリュムンドは加速によって
またたく間に、
「
ブリュムンドの後方右手、まずはハクゼブルフトの投擲したクレラスピクが彼を追い越し、
左半身を
「右半身を
ペリオドットは後方左手からだ。握り手より先、
「燃やし尽くしなさい」
解き放たれたオージュケイザは、雷による左半身の気化を待っていたかのように、右半身を直撃した。
「それも読んでいましたよ」
クレラスピクの雷撃と異なり、瞬時に気化させるだけの温度ではない。粘性液体は粘度が高い分、気化もしにくい。
恐らく、完全状態なら
オージュケイザに
まさに炎と炎に
いつの間にか、貫通したオージュケイザがペリオドットの手元に戻ってきている。手首をすかさず返す。二投目が
「全て気化させてしまいなさい」
二投目によって、さらなる炎がくべられる。続けざま、
「素晴らしいです。私の出番はほぼありませんね」
もはや隠されていた核が丸見え状態だ。なけなしの粘性液体が
ブリュムンドの身体は
「
両手持ちに変えた
「終わりです」
触れたもの全てを
振り下ろしの勢いはなおも加速、
凍土に降り立ったブリュムンドは
ハクゼブルフトもペリオドットも長槍を手に、攻撃態勢を維持したままだ。
既に漆黒の靄は失われている。核は真っ二つに
背後から近づいてきたハクゼブルフトとペリオドットがブリュムンドに声をかける。
「ブリュムンド殿、
ペリオドットの問いかけにブリュムンドは振り返ることなく、
「セレネイア姫が
ハクゼブルフトの
「それは誠ですか」
割断された核は完全に色を失い、凍土の一部と化そうとしている。
「間違いありません。セレネイア姫は、レスティー様より教わったと」
ブリュムンドは、己を赤子の手をひねるがごとく倒した人物の顔を思い浮かべている。正直なところ、あの時、何が起こったか全く理解できなかった。
セルアシェル、トゥウェルテナ、フォンセカーロの三人をいとも簡単に
(真剣勝負なら、私は確実に死んでいました。己の未熟さに気づかせてくれたあの
「ならば、疑う余地はありませんね」
ゆっくりと振り返る。ブリュムンドはハクゼブルフト、次いでペリオドットに右手を差し出す。
「素晴らしい
互いに握手を交わし合った後、ブリュムンドは控え目に頭を下げる。やや驚きの表情を浮かべたハクゼブルフトに
「意外でしたか。十二将たる者、あらゆる者に敬意を。強者であろうと、弱者であろうと等しくです。我らに脈々と継がれる
ブリュムンドの視線はもはや二人を通り越し、セルアシェルの戦いに向けられている。予想外の展開になっているものの、彼女の努力の
「それは敵が
思わず口をついて出てしまったペリオドットに、ブリュムンドは穏やかに答える。
「
ブリュムンドの言葉にハクゼブルフトもペリオドットも、ある意味で衝撃を受けている。
決して人には
「
二人が無言で
「依代とされるのは人でしたね。これまでにどれほどの犠牲者が出たことか。やはり、
ハクゼブルフトの言葉にブリュムンドはまずは首を縦に振り、さらに言葉を繰り出す。
「
そうであれば、やはり
ハクゼブルフトとペリオドットが顔を見合わせている。
「敬意を失えば、ただの
たとえ敵がどのような存在であろうと、十二将は決して敬意を失わない。ブリュムンドは明言しているのだ。
二人とも、したたかに頭を殴られたかのように顔になっている。根底から
今さらながらに、
二人の
三者三様、複雑な想いを
「我らの戦いはまだ終わっていません。顔を上げて、前に進むしかないのです」
十二将序列六位にして騎馬兵団団長たるブリュムンドは両手で二人の肩を叩き、改めて想いを新たにする。
愛する妻と子供が待っている場所へ必ず無事に帰る。これは妻と子供の未来を
「決して負けられない戦いです。必ず勝たねばなりません」
意外に熱い男、ブリュムンドの言葉にハクゼブルフトとペリオドットは力強く
不思議な縁で結ばれた三人が新たな戦場へと向かうため、さらなる一歩を踏み出した。
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