第296話:護る者たちの戦い
ニミエパルドの腕の中からケーレディエズが今にも飛び出さんとしている。セレネイアの
ニミエパルドはケーレディエズを
(まずいですね。このままではケーレディエズが)
これから殺そうとしている相手に塩を送るつもりはない。ケーレディエズを制止する方が大切だ。そのためにもセレネイアが放っている敵意を消し去るしかない。
力づくなら
「今すぐ発散している敵意を
忠告、いや警告だ。回りくどいやり方だと分かっている。この方法こそがニミエパルドにとっての最適解なのだ。
「さもなくば、死にますよ」
あまりに特殊なヒオレディーリナを除けば、ニミエパルドは
彼と共に行動するケーレディエズも同じく、二人にとっての殺戮対象は、
(抹殺することに変わりはありません。ならば、最も苦痛を生まない方法で)
ニミエパルドの配慮をよそに、セレネイアの敵意は全く収まらない。
セレネイアの行動は、かえって裏目に出てしまっていた。強い抑圧は同等の反発を食らうだけなのだ。それが理解できないセレネイアに制御は不可能だった。
「何をしているのですか。早く制御するのです。このままでは」
ニミエパルドがまずいと思ったその時だ。
「ケーレディエズ、いけません」
ニミエパルドが止めることさえできないほどの
「私だけじゃなく、ニミエパルドまで」
美しい
「できうる限り距離を取りなさい」
ケーレディエズは決して止まらない。ニミエパルドにできるのはセレネイアに退避を
「みんな死んでしまえ」
ケーレディエズの両腕が勢いよく振られる。あたかも指揮者のごとく、闇空に音楽を
「あれは。まさか、あの攻撃は」
闇が
「俺の剣技なら、もしかしたら。だが、一歩間違えば」
考えても仕方がない。
正面から来るケーレディエズの攻撃は
迷っている時間もない。セレネイアは
このままでは確実に
「死なせるわけにはいかないな。グレアルーヴ、ディグレイオ、援護しろ」
いきなり飛び出していくザガルドアに対して、グレアルーヴもディグレイオもいささかの
ザガルドアは既に
「乱暴をするが許せ。ディグレイオ、受け止めろ」
言うなり、硬直状態から抜け出せないセレネイアの
「お任せを、陛下」
ディグレイオが軽やかに一歩踏み出す。後方へ、ではない。前方へ、だ。
まずは、同じく棒立ち状態のシルヴィーヌを、例によって例のごとく左腕で軽々と
いわば両手に花といった状態でディグレイオは音もなく着地した。二人をゆっくり大地に下ろす。
「さすがです。ディグレイオ殿」
同じことをされたマリエッタが喜びの声を上げている。ディグレイオは軽く手を
ザガルドアは右手の剣を左
ザガルドアが最も得意とするのは風の魔力だ。性格からすれば炎と思われがちのザガルドアは、なぜか炎を嫌っている。
吹き荒れる嵐は円内を完璧に満たし、さらに円周を押し広げていく。ここに
「長くはもたんぞ。今のうちに立て直せ」
振り返らない。その余裕すらない。
風嵐剣界を維持するだけで相当の力を消費するのだ。少しでも気を抜けば、根こそぎ持っていかれそうになる。
ましてや、ザガルドアの剣は切れ味鋭いとはいえ、ただの
過度な力をかけた瞬間、
(この剣でどこまで持ち
一人離れて
ケーレディエズの攻撃が風嵐剣界と激突を繰り返す。その
「なるほど。陛下のお
鋼糸とは文字どおり、目に見えないほどに細く鋭く
指に専用鋼糸具を装着し、腕を自在に動かすことで鋼糸を操る。扱いに慣れるまでは敵はおろか、術師自身を
そうやって熟練度を増しつつ、必殺の殺人術へと昇華させるのだ。
鋼糸の恐ろしさは幾つかある。まずは常人の目では
次に応用度だ。鋼糸は何も一本とは限らない。達人ともなれば、数十から数百に及ぶ鋼糸を自在に操り、さらにはある程度の遠距離攻撃もを可能にする。また鋼糸は広範囲
「団長、俺たちでは
ディグレイオの言葉どおりだ。鋼糸術師が一人いるだけで、有能な剣士百人分ぐらいの働き手となる。一方、肉体的には訓練された平均的な騎士程度と言ってもよいだろう。中距離以上から強力な魔術を放てる魔術師を相手にした場合、圧倒的劣勢に立たたされる。
ザガルドアが展開している風嵐剣界は、いわば魔力による結界と同義だ。それ
風嵐の
「きりがない。あの女は
さすがに百戦
剣が限界を迎えたその
「セレネイアたちは絶対にここを動くな。嬢ちゃん、任せたぞ」
ディグレイオが
グレアルーヴもディグレイオも風嵐剣界外に出るべく、即座に行動に移る。それを制したのはニミエパルドだった。
「そこから出るということは、ケーレディエズを攻撃するということ。それを私が黙って見過ごすとでも」
ニミエパルドの
そして、響き渡る破裂音、遂にザガルドアの剣が粉々に砕け散った。魔力供給を断たれた風嵐剣界は
万事休すだった。
≪使いなさい。私の可愛い坊や≫
脳裏に響く。その声は確かに聞き覚えがある。
突如、闇を
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