第295話:決して巻き戻せない刻
(以前に比べて感情の
二人の妹には理由が分からない。
セレネイアも己の変化に
ビスディニア流が
(どうしてこれほどに気持ちが
≪何やってんのよ。揺れ過ぎて気持ち悪いじゃない。よいこと、貴女の感情はそのまま、この私に伝わるのよ≫
直接脳内に響き渡る
シルヴィーヌが思わず
≪ついでに言っておくと、敵意を発散しているわね。しかも
彼女の制御が及ばないところで全身から敵意が
ニミエパルドは先ほどから三姉妹、とりわけセレネイアの様子を注視している。あまりに不安定だ。魔力も感情も、そして行動も、何もかもだ。
ニミエパルドはジリニエイユに命じられたことを今さらながらに頭の中で
「お前たちはあの三姉妹を何としてでも殺せ。恐るべき力を手にしておる。さらには多くの者にも
ジリニエイユはそう口にした。
恐るべき力とは、セレネイアがまさに手にしている
現にザガルドアをはじめとする者が、
(愚かとは言いません。それこそが人であることの
かつての己もそうだった。ニミエパルドは信念に基づき、間に合わないと分かっていながら、ケーレディエズ救出のために命を
彼らを見ていると、当時の記憶が
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ニミエパルドとケーレディエズは十日後に結婚式を控えていた。幸せ絶頂期と言っても過言ではないだろう。
共に下級貴族出身の二人は
周囲の全ての者が祝福する中、ただ一人、怒りに打ち震える男がいた。
(あの時、領主様の命を受けて遠征にさえ行かなければ。断ってでもケーレディエズの
ニミエパルドは剣の達人として名を
どこで歯車が狂ってしまったのか。たった一人の男の出現がこれほどまでに事態を悪化させるとは誰に想像ができただろう。
領主には目に入れても痛くないほどの息子が一人いた。ありがちなことだ。甘やかされて育った一人息子は考えられないほどの
しかも、大の女好きときている。領主という権力にものを言わせ、美しいと噂される女をことごとく館に引っ張り込み、
父でもある領主は見て見ぬふりを決め込む。いずれ妻を
ニミエパルドたちは領主が住まう都市から遠く離れた小さな村で暮らしていた。それでもケーレディエズに魔の手が伸びるのは時間の問題でしかなかった。
辺境都市随一とさえ言われるほどの
遂に噂を聞きつけた馬鹿息子は即座に行動に出た。策を練りに練る。こういうところだけは頭が回るのだ。
まずは、ケーレディエズに呼び出しの書状を送りつける。目的は一切記されていない。領主の息子の悪評判は当然聞こえてきている。ケーレディエズは
断られても
どこから調べ出したのか。ケーレディエズに幼馴染の
さらに、ニミエパルドが父の剣、実質的な懐刀であることを知るに至り、この男の命運はここで尽きたかと思われた。
「辺境随一の女をこの手にするまで
女に対する執着心だけは誰にも負けない。最大の障害はニミエパルドだ。
「妙案を思いついたぞ。これでケーレディエズは俺のものだ。どうやって
下衆が言うところの妙案とはこういうことだ。
領地内の一都市で反乱が巻き起こった。これを
もちろん、全てが
この嘘八百の情報をでっち上げたうえで、父を
領主在任中、一度も反乱など起こったことはない。その事実が父の判断を
かくして、領主は息子の言葉を鵜呑みにし、ニミエパルドを館に召喚する。その場で、すぐさま反乱鎮圧部隊を率いて出動するよう命を下したのだ。
呼び出された時点で、結婚式まであと七日を残すばかりだ。反乱の起こった都市まで片道二日、制圧にほぼ一日、後始末は任せるとして領主の館まで戻るのにまた二日を要する。報告を済ませ、すぐさまケーレディエズの待つ村まで急ぎに急いで一日半といったところか。何とか間に合いそうだ。
ニミエパルドは頭の中で計算しつつ、領主の命に逆らうなど考えもしていない。甘いと言われればそれまでだ。
村を出る前にケーレディエズからかけられた言葉が今でも頭から離れない。彼女はニミエパルドに
「私を一人にしないで。お願い、
領主の息子から執拗なほど誘いが来ていることは聞いていた。だからこそ、この機会を
結果、訴えを聞き入れてくれた領主には感謝しかない。今でもその気持ちに変わりはない。ただ、厳しく対処するという約束が
その苦痛からは決して
反乱の地に出向いて、ようやくニミエパルドは現実を直視する。広がる光景はどこをどう見渡しても平和そのものだ。暴動があった
領主の息子にそこまでの
ニミエパルドは取りも直さず反転、急ぎ領主の館に馬を走らせる。途中で何度も馬を乗り換え、不眠不休で
領主から聞かされた事実に、彼は再び打ちのめされることになる。
「済まぬ、ニミエパルド。息子は幾人かの供を引き連れ、私の許しもなく、そなたの故郷へ」
なす
この時ほど魔術師の力を
それさえあれば、言ったところで
「ケーレディエズ、助けに行く。待っていてくれ」
それが
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