第294話:深い想いの果てにあるもの
ニミエパルドの話が終わりに近づく。
途中からマリエッタ、シルヴィーヌは棒立ち、止めどなく
セレネイアも少なからず同じだった。二人に比べて
話を締めくくる言葉が告げられる。
「彼女が最も助けを必要としている時に、私は何の力にもなれなかった。死んでも死にきれないほどの後悔だけが残りました」
始終表情を変えなかったニミエパルドの顔がここで崩れた。そこにあるのは後悔だけではない。耐え
誰も声が出ない。聞かされた内容はそれほどまでに衝撃的だった。
風が
場違いなのはケーレディエズのみだ。
「彼女の心は完全崩壊寸前でした。彼女は心の奥底にある最後の
視線をケーレディエズに
話を聞いてしまった以上、彼らを悪と断じることができなくなっている。
「幼児退行か。そなたたちが味わった苦痛を
ザガルドアは疑問に感じていた。
「
ケーレディエズを見つめ、おもむろに問いかけたザガルドアに視線を移す。その瞳の色を見ただけで答えは分かってしまう。
(深い悲しみ、いや絶望か。敵だというのに、何とももどかしいな)
「ねえ、ニミエパルド」
いきなりケーレディエズがザガルドアを指差し、
「貴殿の名前を聞いてもよいでしょうか」
何ら問題ないとばかりにザガルドアが即答する。
「ザガルドアだ。ゼンディニア王国を
それぞれを指しながらザガルドアが名を告げていく。
「ご丁寧に痛み入ります。貴殿、さらにはお三方の名は、記憶に
まだ三姉妹が残っている。もはや隠す意味もない。続けて口を開こうとしたザガルドアをニミエパルドが制する。
「必要はありません。告げたとおり、私たちの使命は三姉妹の
納得できるのは半分のみだ。残り半分については真っ向から否定する。
「俺たちがそれをやらせるとでも思っているのか」
ニミエパルドは
「国を統べる者は人を統べる者、貴殿なら彼我の実力差を認識できているはずです」
あえて強い言葉を発したものの、ニミエパルドの指摘どおりだ。戦力分析をするまでもない。まともに戦って勝てる相手ではない。
ケーレディエズの攻撃方法が
ましてや、ニミエパルドに
「耳が痛いな。それでもだ。この三姉妹をむざむざ
グレアルーヴとディグレイオは、そのとおりだとばかりに強く頷いている。
一方の三姉妹は、当然のこと
「そういうことだ。そなたたちを見捨てるなどあり
武の王国、そして強者だからこそのザガルドアの言葉だった。
「とっても素敵です、ザガルドア殿」
熱に浮かされでもしたか。シルヴィーヌは
負の感情が戻ったからか、幾分厄介な気持ちを抱きつつも、シルヴィーヌの気持ちをまずは大切にする。
「そうね。いかにもザガルドア殿らしいわね」
セレネイアはシルヴィーヌを離すと、今度は
「ニミエパルド殿とケーレディエズ殿でしたね。私たちの抹殺が使命と言われましたね。ですが、
片手
「マリエッタ、シルヴィーヌ、覚悟を決めなさい」
セレネイアの冷静で
シルヴィーヌは直接戦闘に全く不向き、
「ザガルドア殿、お気持ちは大変有り
ザガルドアをはじめ、十二将の三人にはセレネイアの言わんとするところが即座に理解できている。そして、言われたままに
確かに助力さえしなければ、ニミエパルドもケーレディエズもこちらに対しては仕かけてこないだろう。それは言い換えれば、三姉妹を確実に見殺しにするということに
ディグレイオがザガルドア、グレアルーヴ、トゥウェルテナへと順に視線を動かし、
三人が三人とも首を縦に振ったことで、ディグレイオは心置きなく言葉を発せられる。
「セレネイア、お前の言葉をそのままそっくり返すぞ。俺たちを誰だと思っているんだ」
後を引き取ったのは序列どおりにトゥウェルテナだ。
「ディグレイオもたまにはよいことを言うわよねえ。ねえ、セレネイア、貴女たち三人だけで本気で勝てるとでも思ったかしら。戦力差さえも
現に三姉妹以上に反応を示したのがディグレイオだった。
「怖すぎるぞ、トゥウェルテナ。お前、本気で怒っているだろ」
(女ってほんと、怖いよな)
その言葉だけはしっかりと
「何よ、ディグレイオ。当然じゃない。私たちはゼンディニア王国の十二将よ。
すかさずザガルドアの
「トゥウェルテナ、言い過ぎだ」
セレネイアがいくら対等な扱いを望んでいるとはいえ、彼女はれっきとした王族だ。しかも、ラディック王国初の女王になるかもしれない。さすがに行き過ぎた言葉は
「陛下、申し訳ございません。失言でした」
いかにもトゥウェルテナらしい。まずはザガルドアに対して謝罪したのだ。本来は直接の相手であるセレネイアが先だろう。
ザガルドアは
トゥウェルテナにとって、いや十二将にとって、何よりも優先されるべきはザガルドアであり、そこは
「セレネイア、言い過ぎたわね。謝罪するわ」
頭を下げたトゥウェルテナにセレネイアが言葉をかける。
「トゥウェルテナ殿、頭を上げてください。貴女の言葉は
セレネイアにとって、トゥウェルテナは何とも不思議な女だ。恐らく十歳近く年齢が離れているだろう。剣の師匠であるソリュダリアと同じぐらいか。比較はできない。トゥウェルテナとソリュダリアとでは何もかもが真逆なのだ。
(ずっと師匠を見てきたからか、トゥウェルテナ殿は未知です。どうしたら、あのような)
そこまで脳内で思考しながら、セレネイアははたと気づく。今、自分は
セレネイアはその想いを振り払おうとして何度か
「セレネイアお姉様、どうかされたのですか」
シルヴィーヌの言葉で正気に戻る。セレネイアは振り返って笑みを見せる。
「大丈夫よ、シルヴィーヌ。心配してくれたのね。嬉しいわ」
笑みを浮かべてはいる。どこかぎこちない。これまでに姉が見せてくれていたそれとは明らかに異なっている。
妹だからこそ気づける
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