第292話:ニミエパルドとケーレディエズ
明らかに女の声だ。小さな子供のようにも聞こえる。もう一人、背後に
闇に差す三連月の明かりが二つの影を長く伸ばしている。肉眼による
姿以上に目を引くのが異様なまでの
「面白いですね。
グレアルーヴは胸部から腹部にかけて十文字の
「傷口が簡単に
両手を打ち鳴らしながら、
今しがたの
グレアルーヴが受けた裂傷はもっと深く、盛大に
獣人族ならではの動体視力をもって
この身体硬化術を剛獣と呼ぶ。
もちろん、獣人族からも
「お兄ちゃん、強いね。感心しちゃうよ。ところで、教えてほしいの。ここに、三姉妹っている」
見た目は大人、口調はまさしく少女、それでいて深紅の眼光には狂気そのものが宿っている。グレアルーヴも戸惑いを隠せないでいる。
知ったうえで聞いているのか、あるいは本当に知らないのか。先ほどの
言えるのは、明らかに手加減なしの殺意の
(この女、口調はさておき、明らかに強者だ。ジェンドメンダの比ではない。さらに背後に立つ男も
グレアルーヴの肉眼はこの闇の中でも背後に立つ男を認識できている。女同様、強者には違いない。それ以上に背筋が凍りそうになるほどの
(あの
原因は男が
「俺は知らぬな」
聞いた女に変化はない。ただ深紅の瞳の奥で火花が散ったかのように見えた。感じた
「お兄ちゃん、
聞き捨てならない名前が飛び出してきた。
女に目立つ動きはない。にもかかわらず、先ほど以上のうねりが
グレアルーヴもむざむざやられるつもりは
「その攻撃は一度見た」
左手薬指の爪には風の魔力を封じている。
グレアルーヴは
「グレアルーヴ」
ディグレイオのお
「何が起こった。狙いは見定めていたはず」
グレアルーヴはたまらず
「彼女の力を見誤っていましたね。剛獣で全身を
男の口調は平静そのものだ。
この機を
一方の女は満面の
「ええ、ええ。大変よくできましたよ。さすが、ケーレディエズですね」
それだけでは不服なのか、ケーレディエズと呼ばれた女はいささか機嫌が悪そうだ。
「分かりましたよ。おいで、私の可愛いケーレディエズ」
「ねえ、ニミエパルド、
まるで自らの子供に接するがごとく、差し出された頭を優しく
意識のある者、グレアルーヴ、ザガルドアにディグレイオの三人が三人とも
ニミエパルドは無論のこと、ケーレディエズも
「理解に苦しんでいるようですね。これが彼女です。身体は大人、心は子供です。成長を
ニミエパルドの表情は
「彼女、ケーレディエズは将来を約束し合った最愛の人でした」
グレアルーヴは
「お言葉に甘えて、止血を優先させてもらう」
上半身の魔気を
「見事ですね。まさしく熟練の
ニミエパルドの
「止血の時間、
首が縦に振られる。言葉はない。
「そなたが先ほど語った言葉、
意表を突かれたのか、ニミエパルドの表情が
「そう、ですね。無意識の言葉ほど恐ろしいものはありませんね」
他人に語る気などなかった。理解されないだろう。同情など、ことさらに不要だ。そう思っていたニミエパルドの心は確かに揺れた。
目の前の男なら、何より獣人族のこの男なら、かつての友だったあの者のように理解し合えるだろうか。
「先に告げておきます。ここに三姉妹がいることは承知しています。ケーレディエズも私も、三姉妹抹殺の命を受けてここに来ています」
グレアルーヴの
狙われるとしたら、いずれかの王族に違いない。ザガルドアとセレネイアたち三姉妹を
三姉妹はどうなったか。左右に吹き飛ばされたところまでは把握できている。その後、彼女たちが起き上がってきた
右やや後方に飛ばされたセレネイアとシルヴィーヌは土砂と
左に飛ばされたマリエッタはもっと
「ああ、もう、何てことをしてくれるのですか。私、本当に怒っていますからね」
土砂の中から飛び上がってきたマリエッタの全身が炎にくるまれている。その姿はまさしく
「何だよ、あれは。第二王女、反則じゃねえか」
「ディグレイオ、気持ちはわかるぞ。俺も
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