第290話:待つ者と急ぐ者
初撃必殺こそガドルヴロワの戦いにおける唯一不変の法則だ。
ビュルクヴィストとガドルヴロワ、二人の距離はおよそ十歩間まで詰まっている。
ゼーランディアの魔力が色を帯び、空を
ゼーランディアは付与した魔術を発動させるべく、最大の集中力をもって魔力制御を続ける。
彼女の意を受けた十振りの剣が
「ビュルクヴィスト様」
背後からエランセージュの
直撃は確実だ。もはや逃れようもない。誰もがそう思った。
「問題ありません。全て
どこから取り出したのか、ビュルクヴィストは右手に持った
「何、あの光は。あれは、まるで、あり得ないわ」
ゼーランディアの
差し出した錫杖の先端部、八つの立て爪によって
八つの立て爪は全て異なる色で構成されている。透明に輝く宝玉内部に八色が溶け込み、複雑に乱反射を起こしながら幻想的な
「無駄です。視えていると言ったでしょう」
静止した十振りの剣のはるか上空、音もなく、さらには
ガドルヴロワは既に危険を察知している。
「ガドルヴロワ、剣を捨てて」
迷っている暇はない。このまま光の中に突っ込むのは自殺行為だ。
姉の言葉を受け止めたガドルヴロワは、二振りの剣を
ゼーランディアの魔力操作による
ガドルヴロワの身体は引っ張られる形でゼーランディアのもとへと誘導されていく。
「あの八色の光に絶対触れては駄目、あれは間違いなく」
ゼーランディアの言葉を引き取ったのはエランセージュだ。
「
「
どこまでも冷静沈着なソミュエラが突っ込みを入れてくる。エランセージュは小さく首を縦に振って
「いかにビュルクヴィスト様が魔術高等院ステルヴィア院長であろうと、生身の状態で
エランセージュが指差す。
「ビュルクヴィスト様が手にするあの錫杖も
ヴェレージャの
魔術高等院ステルヴィア院長にのみ代々受け継がれてきた、そしてレスティーの使用許可があってこそ初めて人族の身で扱える秘宝具、それが
先端の宝玉から放たれている八つの光は、
「副次効果でこの威力です。確かに、人にはあまりにも過ぎたる力ですね」
ゼーランディアがガドルヴロワを
(あの光の前では剣など玩具にすぎない。私の魔術でさえ。何としてでも弟だけは護ってみせる)
「ビュルクヴィスト様、ご
「ええ。元気でしたか、と聞くのもおかしな話ですが、ただ一点を除き、変わりはないようですね」
敵意の視線には慣れている。敵意と言っても、
「ビュルクヴィスト様もご
ビュルクヴィストは首を縦に振って了承の意を返す。
「八色の光、紛れもなく
最後まで聞く必要はないとばかりに
「この錫杖こそ、ですよ」
先ほどエランセージュが指差した答えがここにある。
「魔術高等院ステルヴィアで厳重に封印されている秘宝具です。代々の院長にのみ継承され、特定条件を満たさない限り、触れることすら
ビュルクヴィストの言葉を
「ゼーランディア、貴女は昔から
「ここで戦う意味はあるのですか」
二人ともに理解している。
人としての感情は既にビュルクヴィストとの戦いを拒否している。にも関わらず、もう一つの感情、それを感情と呼ぶかはさておき、
(
ビュルクヴィストは
≪ヒオレディーリナ、教えてください≫
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ビュルクヴィストたちと別れたヒオレディーリナは、一目散に三姉妹のもとへ急いでいる。
時間が惜しい。
ルシィーエットが追ってきているのも承知している。彼女は三姉妹を知っている。
(顔はもちろん、魔力質も分からない。あの二人を早く探し出さないと)
珍しく
ルシィーエットの言葉に嘘はない。断言できる。ルシィーエットがヒオレディーリナに嘘をつくなどあり得ないからだ。それだけ二人の絆は深く、かつ強い。そして、ヒオレディーリナの告げた言葉にも嘘はない。
(セレネイア、だったかな。殺されていなければいいけど。ルーやビュルクヴィスト以外で、あの二人を相手に勝てるとは思えない)
肝心のヒオレディーリナはどこにいるのか。
高度二千メルク地点、そこから
彼女は全身に風を
もっと手っ取り早い方法もある。ヒオレディーリナの身体には
本来、一つの身体の中に複数核を持つのが上位
それ
(見つけた)
網に引っかかったのは人族が有する複数人の純粋な魔気、そして二体が有する
(これは。そう、こんなところにいたのね)
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