第289話:複雑な再会と過去の因縁
大地に触れるや、
そこに二人の姿がある。
「いやはや、まさかこのような演出をされるとは心底驚きです」
独り言を
魔術転移門ではない。レスティーによる転移なのだ。本来ならば、侵入を
ビュルクヴィストの前に立つ二人は、なぜか一様に複雑な表情を浮かべている。どこか遠慮がちな態度でもある。
「さて、随分と久しい、と言うべきなのでしょうね。ゼーランディア、ガドルヴロワ」
一呼吸置く。二人の姿を
(そういうことですか。レスティー殿のあの時のお言葉、何かお考えがあってのこととは思っていましたが。
「貴方たち姉弟は、死んだはずですね」
ビュルクヴィストの目は二人の体内に埋め込まれた
「あれから、およそ三百二十年が
「ビュルクヴィスト様、お久しぶりです。このような形でお目にかかろうとは予想外です」
「ここで戦う意味はあるのですか」
単刀直入に尋ねる。かつての姉弟を知るビュルクヴィストだからこそできることだ。
「ビュルクヴィスト様、貴男に何が分かるというのです。あの時、貴男は動いてくれなかったではありませんか」
声を荒げるガドルヴロワの感情が次第に
「姉さん、やるよ」
ガドルヴロワの言葉に即座に反応、ゼーランディアが閉じていた魔力回路を開き、弟のための剣を
宙を割って出現した剣は全部で
「ガドルヴロワ、
ソミュエラの声を受けたビュルクヴィストが
「ソミュエラと言いましたね。貴女を巻き込むつもりはありません。速やかに
「エランセージュ嬢」
非力なはずのエランセージュのどこにこれほどの力があるのか。ソミュエラは無論のこと、ヴェレージャやディリニッツでさえ予測できない迅速かつ的確な行動だった。
特にヴェレージャだ。水騎兵団の団長と副団長、その関係もあって誰よりもエランセージュと接している時間が多い。その彼女から見ても、あまりの変わり様だったのだ。
エランセージュはビュルクヴィストの背を見つめつつ、右手を静かに持ち上げる。手首には神からの授け物たる
今のエランセージュなら一目で理解できる。展開されている
(大丈夫、魔術は発動できます。なぜなら
迷いなど一切ない。エランセージュは
"Raprrais-lairtuw."
埋め込まれた五つの宝玉のうち、一つが
「
ヴェレージャがいきなり背後から抱きついてくる。よほど嬉しいのだろう。その感情がエランセージュにも伝わってくる。
「だ、団長、恥ずかしいです」
ヴェレージャもディリニッツも当然気づいている。エランセージュが有する魔力量、魔力質だ。これまで全く感じられなかったのに、いったいどうしたことか。
十二将随一のヴェレージャのそれさえも上回るほどだ。もちろん、
「もう、
まるで
「いい加減にしろ」
「いい加減にしなさい」
場所が場所なだけに、こうなるのは必然だ。少しばかり
「それよりも、エランセージュ、お前のその魔力、いったい」
ディリニッツも戸惑いを隠せないでいる。魔術転移門で連れ去られる寸前まで行動を共にしていたのだ。短期間での激変を前にしては驚くしかない。
先ほどからエランセージュは左手で右手首の
「
ソミュエラでさえ分かるほどだ。ディリニッツはその腕輪が魔導具、いやそれ以上のものではないかと感じている。
「美しい瑠璃色ね。貴女の瞳、髪と同じね」
ヴェレージャも
「
そのような秘宝具を授けられる者など、ヴェレージャもディリニッツも一人しか知らない。
「我が神からの授かりもの、
エランセージュを囲む三人が三人とも感じ取っている。まるで別人のごとく強い意思が心の中に
「エランセージュ嬢、よく言いました。それでこそ私の弟子ですよ。死の
三人の表情が瞬時に
(ビュルクヴィスト様は話のきっかけを作ってくださったのですね)
エランセージュはこちらに視線を向けているビュルクヴィストに
二人の
「攻撃を待ってくれていたとは恐縮ですね」
視線を再び二人に戻したビュルクヴィストの言葉に、ガドルヴロワが応じる。
「貴男を相手に
それはすなわちビュルクヴィストも同様ということに
「貴方たち姉弟の力、久しぶりに見せてもらいましょう」
ガドルヴロワの右手が
先手は譲るとばかりにビュルクヴィストは詠唱は無論のこと、構えもしない。
ゼーランディアの魔力が活性化、十振りの剣が震えている。全ての剣に異なる魔術が付与され、どう扱うかはガドルヴロワ次第、ゼーランディアは魔力が途絶えないように制御するのみだ。
右手が振り下ろされる。同時に二振りの剣を
(そうです。それでよいのです。教えられたことを忘れていませんね)
直接教えたわけではない。ビュルクヴィストは二人の、特にゼーランディアの直接の師ではないからだ。
十振りの剣が宙より
一つでも対応を誤れば、確実に
(ビュルクヴィスト様がどうあろうと関係ありません。初撃必殺を
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