第286話:分断された戦い
さらに両手に
「実に
相対しているのは十二将序列五位のソミュエラだ。同じく左右の手に握る
敵の五振りに対して、こちらは二振り、必然的に
肌を伝って流れる血が永久凍土の大地に赤い小さな斑点を生み出していく。このままでは、いずれ
ここはアーケゲドーラ大渓谷の谷底だ。陽光は完全に
既に互いの剣を重ね合わせること数十回に及ぶに至り、明らかにソミュエラの動きが悪くなっている。
「まずいわ、ソミュエラの動きが一段と悪くなってきている。ディリニッツ、何とかあそこまで
ヴェレージャの
「この一帯の影が封じられている。あの女の
本来、ほぼ光のない大地は闇の支配領域だ。永久凍土であろうと、そこに闇がある以上、ディリニッツの
ディリニッツとヴェレージャの視線の先、一人の女が
「あの女が有する魔力量は異常すぎる。いったい幾つの魔術陣を多重展開しているんだ」
永久凍土に敷き詰められた魔術陣は彼女の髪と同色、淡紫の光を放ち、複雑な
「今のところ全部で七つよ。まだ増えそうよね」
ヴェレージャは
今まさに行われている戦闘の構図はこうだ。
すなわち、
トゥウェルテナと負傷したホルベントは、フィリエルスのアコスフィングァで出発地点の高度二千メルク地点に戻り、さらに後方支援の頼みの
残ったのはラディック王国の騎兵団のみだ。ハクゼブルフト、ペリオドット、ノイロイド、エヴェネローグの四人に、高度二千メルク地点からソミュエラとともに下りて来た十二将序列六位のブリュムンド、そして坑道組のセルアシェルが合流している。
十二将五人にラディック王国騎兵団の勇士たち、この戦力ならば敵なし状態であっても何ら不思議ではない。それが苦戦防戦一方に立たされている。
それもそのはず、ブリュムンドたちが相手にしているのは
万が一にでも、ここで
「互いの援護は期待できない。眼前の敵を倒す。それだけに集中しないと全滅するぞ」
ディリニッツの想いは皆に伝わっている。焦りは禁物だと分かっていながら、どうにも状況を打破する糸口が見つからない。
戦闘が始まって十数メレビルが
先行して周囲の状況を確認していたヴェレージャたち三人と、それ以外の間隔が開きすぎていた。そこに
魔術陣を境にして不可視の障壁が発生、それによって行き来が
「セルアシェルが残っているのがせめてもの救いだ。あちら側は魔術が行使できるようだからな」
心配そうな視線を向けているディリニッツをからかうかのようにヴェレージャが軽口を叩く。
「可愛いセルアシェルですものね。それはもう心配よね」
ディリニッツが、いきなり何を言い出すんだといった表情で振り返る。不可解だ。どうしてヴェレージャが勝ち誇ったかのような態度になっているのか、
「意味が分からないな。セルアシェルは私の部下だぞ。それにまだ子供だ。心配して当然だろう」
それを聞いて、深いため息を
「はあ、これだから苦労するのね。いい、ディリニッツ、貴男はもっと女心というものを学んだ方がよいわよ」
これは私が
「おい、ヴェレージャ、今はこんな話をしている場合ではない。あれの対処法を考え出さないと本当に」
言葉が
「魔術付与した剣を
異なる
ほぼ棒立ちのソミュエラには
「この魔術陣は魔力を外に出せなくするためのもの。体内に
肩口から入った切っ先が狙いたる心臓に到達できずにいる。肉に食い込んだまま、切っ先が微動だにしない。
「面白いですね。貴女のような使い手がこの時代に残っていたとは驚きです」
魔力制御に集中しつつ、
「ガドルヴロワ、どうしたの」
ガドルヴロワと呼ばれた男は軽く左手を挙げ、心配ないと無言で伝える。女は安堵したのか、いっそう魔術制御の力を強めていく。
分からないほどの笑みを浮かべたガドルヴロワが小声で
「ゼーランディア姉さんは私が絶対に
ガドルヴロワは
「
戦いが始まって以来、無言を貫いていたガドルヴロワがいきなり
「これは失礼いたしました。つい無駄話をしてしまいましたね。ああ、申し遅れました。私はガドルヴロワ、そして姉のゼーランディアです」
振り返って姉の位置を指し示す。今、この瞬間は敵とは思えない。
「ご丁寧な
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