第280話:ようやくの再会の刻
パレデュカルは仕かけどころを念入りに探っている。合成魔術が破られた今、それを上回る魔術を行使しなければならない。
既に漆黒の
何よりもオントワーヌの存在が脅威だ。
キィリイェーロたちが総崩れになるなら、間違いなくオントワーヌは介入してくる。そこの対処を誤れば、一気に形勢を逆転されてしまう。
(
悩みどころだ。交渉といっても対等ではない。オントワーヌの方が明らかに上位者だ。エルフ属の争いとして決着をつけるから介入しないでくれ、と頼むしかない。
(切り札はある。あるが切ってしまえば、もはや二度と後戻りはできぬ。それに、あいつらが)
視線をトゥルデューロとプルシェヴィアに
「パレデュカル、警告を二つしておきます。一つ、その力をそれ以上使わぬこと。一つ、切り札を切らぬこと。私を甘く見ない方がよいですよ」
ひどく抽象的な物言いだ。
「
パレデュカルの目が鋭利なまでに細められる。警戒心が
「これは痛み入る。警告を心に
トゥルデューロが思わず息を
「オントワーヌ様、切り札とは、やはり私たちの娘ラナージット」
遠慮がちに尋ねてくるプルシェヴィアにオントワーヌは
トゥルデューロとプルシェヴィア、二人の目がパレデュカルに
父と母、パレデュカルに対する想いは違えど、娘ラナージットへの愛情に何ら変わりはない。パレデュカルは二人からの視線が予想以上に
(ようやくここまで来たんだ。
パレデュカルがゆっくりと右手を宙に走らせる。動きに応じて空間が切り取られていく。これを見せられるのは二度目だ。
「心配性のおまえたちのためだ。ラナージットは無事だ。何もするつもりはない」
切り取られた空間内に映し出されているのは、
トゥルデューロとプルシェヴィアだけでなく、キィリイェーロたちもその姿を食い入るように見つめている。
「これが
プルシェヴィアの疑問は
「信じるかどうかはお前たち次第だ」
「ラナージットの
パレデュカルの目を
(これがトゥルデューロ殿との違いでしょうね。やはり母は強し、ですね)
オントワーヌも感心しきりの様子でプルシェヴィアを見つめ、それから遠くの何かに思いを
≪いかがなさいますか≫
尋ねかけるオントワーヌに即答が来る。
≪ここへ≫
≪承知いたしました≫
遠くに向けていた視線をプルシェヴィアに戻したオントワーヌは、左手に抱えていた禁書を再び開く。
白に染められた光がたちまちのうちに
「何をするつもりだ、オントワーヌ」
閉じた禁書をまた開いたのだ。パレデュカルから
「安心しなさい。貴男を直接攻撃するわけではありません。私としては
溢れる光に圧倒されたのか、トゥルデューロやプルシェヴィアはもちろんこと、キィリイェーロまでもが動きを止め、オントワーヌに視線を固定してしまっている。それはパレデュカルも同様だ。
オントワーヌがこれから
右手の人差し指が羊皮紙の上を
魔術行使には詠唱が絶対不可欠だ。もし詠唱が不可能となった場合はどうするのか。いわゆる魔術師封じだ。過去、魔術師たちはこの課題を解決すべく、長い歳月をかけてあらゆる方法を試してきた。
その一つが文字を用いる方法だった。魔術巻物は言霊に代わる文字を書き
禁書に書かれている一文は魔術そのものであり、羊皮紙から躍り出た時点で即時効力を有する。だからこそ、正しい用途を知らない者、力に
オントワーヌは禁書に触れられる数少ない魔術師であるからこそ、正しく禁書の中身を理解し、行使している。ただし、例外措置であり、一時的なものにすぎない。
宙に禁書の文字が規則正しく並び、強烈な
「な、何だ、この光は。まるで陽光、目がつぶれそうだ」
トゥルデューロが
ここに集う者たちの視界を
「さて、これで憂いはなくなったでしょう」
何かを閉じる小さな音が響く。
「馬鹿な。そんなことが。なぜだ。あそこには」
悲鳴にも近い叫び声を上げ、パレデュカルがしきりに首を横に振っている。それだけ異常な光景だったからだ。
「ああ、どうして、これは、夢、なの」
プルシェヴィアの声にならない
「ああ、ラナージット」
全ての視線がオントワーヌの
当然だった。つい先ほどまで、横たわる少女の寝顔が確かにあった。それが
「
両手で顔を押さえているプルシェヴィアに寄り添い、優しく肩を抱くトゥルデューロもまた涙している。
ようやくこの刻を迎えられた。心から待ち望んできた瞬間だ。愛しい娘と再会できる。
ラナージットは今まさに目の前、オントワーヌに抱かれたまま安らかな眠りの中にいる。
トゥルデューロとプルシェヴィアが
長老キィリイェーロも例外ではなかった。
(本当によかった。トゥルデューロ、プルシェヴィア、お前たちもよく
それ以上の言葉は不要だ。
オントワーヌの視線が
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