第272話:死を前にしたアフネサヴィア
ミジェラヴィアの命の
絶叫は
灯が完全に消え去った時、永遠に続くかと思われたアフネサヴィアの絶叫もまた終息をみた。安置室に静寂が戻ってくる。
ジリニエイユの洗脳が
洗脳が解けた瞬間、確かにアフネサヴィアには聞こえたのだ。ミジェラヴィアの最後の声が。ただ一言、よかった、と。
正気に戻ったアフネサヴィアが目の前に広がる
彼の中にあるのは己の計画を
ジリニエイユの最大の目的、実弟キィリイェーロの
現実に直面したアフネサヴィアは自身の
心は壊れた一方、別の意味で強くなっていた。ジリニエイユに
姉ミジェラヴィアのため、そして自分のために命を
甘言は讒言だ。アフネサヴィアはそのことを胸に刻み、どれほど
アフネサヴィアの心の奥底の想いまでは分からなかった。やはり魂の一部が欠けてしまっていたのだ。パレデュカルにしてみれば、そこも知っておきたかった。いや、そここそ知らなければならなかった。
(仕方がない。いずれにせよミジェラヴィアを殺した張本人の一人だ。もはや生かしておく意味もない)
パレデュカルの右手が漆黒の
「パレデュカル、聞かせてくれ。アフネサヴィアは何を語ったんだ」
トゥルデューロになら聞かせてもよいだろう。それ以外の者は論外だ。パレデュカルは漆黒の靄を操りながら、
≪なりそこないどもの侵入を手引きし、多くの里の者を
トゥルデューロの息を
言葉を
彼女の取った行動は明らかに
アフネサヴィアの性格からしても、里の者全てに真相を知られたところで開き直る度胸も勇気もあったはずだ。思考を中断するようにトゥルデューロの言葉が返ってくる。
≪で、では、やはりミジェラヴィアも≫
問いに答える気にはなれない。パレデュカルは漆黒の靄を誘っていた右手を乱暴に振り払う。
ジリニエイユから伝えられていた話が
このまま一思いにやったところで己自身の気が晴れるわけでもない。ミジェラヴィアがそれを望んでいないことも承知のうえだ。
(ミジェラヴィア、俺はどうすればいい。お前なら、許すと言うのだろうな)
パレデュカルの束の間の
≪パレデュカル、頼む。その
トゥルデューロの気持ちは理解できる。引き渡すなど言語道断だ。ミジェラヴィアの
そこにトゥルデューロから殺し文句が飛んでくる。
≪ミジェラヴィアはお前がアフネサヴィアを殺すことなど望んでいない。それだけは明言できる≫
パレデュカルの何かが確実に切れた。これまで心の奥底に閉じ込め、二度と外に出さないと決めていたそれは、
「黙れ」
口から発せられたのはたった一言だ。トゥルデューロは心臓以外のあらゆる動きを封じられた。トゥルデューロだけではない。ここにいるあらゆるものが止まっている。
漆黒の靄を上塗りするがごとく、灼熱の炎が居並ぶ
「ちっ、術破りの秘術か」
不可思議なことにアフネサヴィアだった
≪その女にはまだ使い道があるのだ。勝手は許さぬぞ≫
ジリニエイユからの
アフネサヴィアが炎に包まれてなお気化しないのは、まさに秘術によって保護されているからだった。
≪それは私が預かっておく。私に対する憎しみもまた
それをもって
パレデュカルは無言のままだ。平静を装ってはいるものの、全身から怒りを発散させている。必要以上に力を籠めて握る右
「パレデュカル、アフネサヴィアをどこへやった。何をしたのだ」
問いには答えず、パレデュカルはこの場を支配する者としてトゥルデューロに命じる。
「トゥルデューロ、他の奴らは生かしておいてやる。今すぐ、この地から離脱させろ。お前は俺と共に来い」
有無を言わせぬ口調にトゥルデューロは
周囲を見渡す。三十体ばかりいた
パレデュカルはなおも漆黒の靄を自在に操っている。いつでも強制
「お前たち、先ほど言ったとおりだ。
トゥルデューロはシュリシェヒリの者たちに深々と頭を下げる。
異論を口にしたアフネサヴィアはもはや存在しない。残された皆は、これが苦渋の決断だと承知している。
幾人かは、トゥルデューロがパレデュカルと共に行くことを快く思っていない。それが表情に表れている。その者たちに問うたところで、解決策が見つかるはずもない。だからこそ沈黙を貫いているのだ。
「トゥルデューロ、お前の言葉に従おう。そして、済まない。俺たちの力不足だ。お前を残していくのは忍びないが、長老とプルシェヴィアを頼む」
魔弓警備隊副隊長のピスティリンデが無念の表情をにじませ、一同を代表して言葉を発した。何かを口にしようとするトゥルデューロを
「いつまでいるつもりだ。さっさと消えろ。それとも
「待て、パレデュカル。すぐに離脱させる。お前たち、急げ」
慌てたトゥルデューロがパレデュカルを制止、里の者に行動を促す。
漆黒の靄の怖ろしさは嫌というほどに味わっている。彼らはトゥルデューロの言葉を待つまでもなく、急ぎ魔術転移門を展開しようとしていた。
「ば、馬鹿な、どういうことだ。魔術転移門が、開かない。どうなっている」
いくら魔力を籠めようとしても、その
「無駄です。魔術転移門は封じました。貴方たちには今しばらくこの地に
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