第270話:悲しきアフネサヴィア
パレデュカルが
先ほどまで
「アフネサヴィア、いや、そんなはずはない。お前はミジェラヴィアの妹で、プルシェヴィアの姉だ。そのお前が」
トゥルデューロがしきりに首を横に振りつつ、ようやくアフネサヴィアから視線を外す。再びパレデュカルと向き合う。
もしも隠された真実があるなら、ここにいる全ての者に聞かせるべきだ。その前に確かめたい。
≪パレデュカル、何を知っている。あの時の襲撃、ジリニエイユの
意外な配慮にパレデュカルは
≪わざわざ
パレデュカルにとって、ジリニエイユは恩人であり師でもある。その関係はいったん解消されたものの、この状況下、
≪全てとは、いったい。どういうことだ、パレデュカル。教えてくれ≫
味方同士を
ジリニエイユが
≪今さら聞いてどうする。真実は一つとは限らないんだぞ。俺があの女を問い詰めているのは、俺なりの理由があるからだ≫
理由は聞くまでもない。トゥルデューロにはすぐに分かった。ミジェラヴィアの死の真相だ。実の妹が関わっているかもしれない。パレデュカルがアフネサヴィアを執拗に責める理由がトゥルデューロにはようやく理解できた。
≪なぜ大半の者が里の最奥まで追い込まれた。
パレデュカルは幻影のジリニエイユと戦った直後、動かない右脚を引きずりつつシュリシェヒリの里まで魔術転移門を開いた。眼前に広がる無残な光景を前に、
結界が展開された里の出入口、
にも関わらず、
その時点でおかしいと気づくべきだった。パレデュカルは自分が思っていた以上に冷静さを失っていた。
ようやくにして、その事実に突き当たったのは、魔術高等院ステルヴィアで短期間の修業を終え、そこを離れてしばらく
全てはジリニエイユの手のひらの上だった。
サリエシェルナの情報を流してパレデュカルを誘い出し、戦闘の最中で、ある程度の目的と事実を教える。さらには本物の
ジリニエイユには分かっていたのだ。パレデュカルは言われるがままに行動し、里の異変の事実にも気づくだろう。そして、その理由を
≪も、もし、アフネサヴィアがその、襲撃に≫
言葉が途切れ途切れになってしまう。トゥルデューロは信じたくないのだ。ここまでの計画を立てた張本人は間違いなくジリニエイユだ。彼以外にそれができるとは思えない。
彼の手駒として里内部の者が使われた。そういうことか。もしかしたら、アフネサヴィア以外にもいるのではないか。トゥルデューロはさらに疑心暗鬼に陥っていく。
≪襲撃に、関わっていたとしたら、お前、どうするつもりだ。それに、他にもいるのか≫
トゥルデューロの
シュリシェヒリの者は、里を
その根底が覆されるとしたら、いったいどうなるのか。考えるまでもないだろう。確実に内部崩壊を引き起こす。
≪決まりきったことを聞くな。他にいるかは、お前が知ることではない≫
冷酷に切って捨てる。他にいるか
「アフネサヴィア、いつまで黙っているつもりだ。答えられないなら、俺が代わりに教えてやってもいいんだぞ」
四姉妹の中で最も気が強く、主張の激しいアフネサヴィアだ。永遠に沈黙を守り続けることはできないと理解している。
(一つだけ方法はあるがな。この女がそれを選ぶとは到底思えない)
パレデュカルとしても、アフネサヴィアから自白を引き出さなければならない。ジリニエイユから聞かされている詳細の全てが真実とは限らないからだ。
一方の意見だけを
「お前はミジェラヴィアの死を俺のせいだと責めたな。お前はミジェラヴィアを
パレデュカルは容赦なくアフネサヴィアの胸底まで
「お前が怪我一つ負わず生き残った真の理由だ。お前自身が一番よく知っている」
アフネサヴィアがゆっくりと
それは突然起こった。
アフネサヴィアが左腰の
自ら魔術を付与した矢の効能は己が一番知っている。これならすぐに死ねるだろう。姉ミジェラヴィアに、里の者全てに
鮮血が噴き上がり、辺り一面を
(ごめんなさい、ミジェラヴィア姉様、みんな)
パレデュカルは
「全てを聞き出すまで、お前を死なすわけにはいかないのだ」
こうなってはやむを得ない。パレデュカルは即座に漆黒の
(ミジェラヴィア、先に
アフネサヴィアの瞳の光が消えつつある。たとえ死んでしまっても
余談ではあるが、記憶は魂と密接に結びついている。死者の魂は死後も肉体に
混沌の秩序は常に維持されなければならない。輪還は正しき魂のみを導き入れるのだ。もちろん、パレデュカルが知る由もない混沌の理論だ。
アフネサヴィアの血で染まった全身を漆黒の靄が包み込んでいった。即座に靄が身体を作り変えていく。
靄に包まれているため、
(死後すぐに
どう
変態を終えたアフネサヴィアだったものが
「三百二十四年前だ。シュリシェヒリの里に
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