第269話:もう一人の裏切り者
パレデュカルがトゥルデューロの瞳の奥底を
真意を測りかねていた。あまりにも
全滅が間近に迫っている今、トゥルデューロが何を思い、何を考えているか、想像に
二人が
(トゥルデューロ、これでいい。お前を殺すのは、俺の本意でもない)
互いに敵視しているものの、
そうではないからこそ、物事が進めにくいのだ。パレデュカルが回りくどく、羽を一枚一枚もぐがごとく時間をかけて苦しめているのもそのためだ。
パレデュカルは
シュリシェヒリの者たちと
「いいだろう。お前以外の奴らに用はない。この地から離脱するなら、命だけは助けてやる」
掲げた右手を下ろし、
「これ以上の戦いは無駄に犠牲者を増やすだけだ。どうか
言外に様々な意味を含め、敗北した事実を一同に突きつける。
「堪えられるものか。認められるものか。トゥルデューロ、
沈黙の中、ただ一人声を荒げたのは魔弓警備隊隊長のアフネサヴィアだ。
姉ミジェラヴィアを
全ての元凶は
死すら覚悟のうえだ。ここで敗北を認め、おめおめと逃げ帰るなど、他の誰が許そうとも、己自身が決して許さない。
即座にパレデュカルに向けて弓を構えると、矢をつがえて
弓には軽量化と標的視認化、矢には風雷強化、速度強化、
「アフネサヴィアか。四姉妹で最も
パレデュカルは無防備だ。矢を向けられながらも防御態勢を取らず、平然と
アフネサヴィアが矢を放てば、確実に彼を射貫く。そして彼女は本気だった。弦を限界まで引き絞って、矢を
「ダナドゥーファ、ミジェラヴィア姉様が死んだのは、お前のせいだ。お前が、あの時、里にいさえすれば」
声が詰まる。様々な感情が渦巻く。
「姉様は、ミジェラヴィア姉様は、死なずに済んだ」
ミジェラヴィアは長老補佐として最後まで長老と神殿を
そして、姉ミジェラヴィアは命を落とし、恥知らずにも自身はこうして生き長らえている。どうせなら姉と一緒に死にたかった。それ以来、その想いを胸に抱きながら生き続けてきた。
「殺してやる」
アフネサヴィアは
標的視認化の効能で狙いをつける必要もない。ただ素早く指を離すだけだ。
「面倒くさい女だ。その程度で俺を殺せるとでも思ったか」
心底
速度強化を
速度を完全に失った矢は、重力に引きずられて大地に落ちる。それが自然の法則というものだ。
「馬鹿な」
矢は落下することなく、その場に
まだ二つの付与の効能が未発動だ。効能が失われていなければ、鏃が到達すると同時に魔術が発動、射貫きながらにして標的を風雷の攻撃が襲う。そして揚力制御によって矢は放った者のもとへと再び帰ってくる。そのいずれもが発動しない。
しかも、パレデュカルは対抗のための魔術さえ詠唱していない。本来であれば、防御できるはずがないのだ。アフネサヴィアが
パレデュカルは無造作に右手を伸ばすと鏃を指で
「腐食か。パレデュカル、お前自身が」
トゥルデューロは言葉を
「アフネサヴィア、お前ごときの力など
跡形もなく朽ち果てた矢の次はアフネサヴィアだ。生かしておく価値はない。パレデュカルは彼女の顔に向けて右手を
「待ってくれ、パレデュカル。約束が違う。ここにいる者は助けて」
途中で
「俺はこの地から立ち去ることを条件に助けると言ったんだ。だが、あの女は去るどころか、俺に攻撃を仕かけてきた」
(その方が俺にとっても好都合だ)
トゥルデューロが
「アフネサヴィア、返事はどうした。俺は理解できたかと聞いたんだ」
「その前にだ。あの時の
トゥルデューロの視線が二人の間を
「パレデュカル、いったい何の話をしているんだ。俺がお前のもとに行く。そして残った者は即座にこの場を離脱する。それで話は終わりじゃないのか」
口を
「トゥルデューロ、里に
何が言いたいのだろうか。トゥルデューロは首を
シュリシェヒリがほぼ壊滅状態に
よもや神殿最奥に安置されている
その元凶を作り出したのはジリニエイユだ。
果たしてそうだろうか。あの時、ジリニエイユは里にいなかった。何十年も前に離れて以来、一度も戻っていない彼があそこまで用意周到な襲撃が可能だっただろうか。
「何が言いたいんだ。まさか、お前、里の中に」
頭が混乱する。パレデュカルはいったい何を知っているのだろうか。
これまでシュリシェヒリの里内でも、ジリニエイユただ一人が引き起こした大惨事とだけ伝えられてきたのだ。それが覆されるのか。
考えるのが苦手なトゥルデューロの脳内は混乱を通り越して、今にも爆発しそうだ。
「結界が無効化されたとはいえ、里内にはシュリシェヒリの目を持つ者が
パレデュカルの視線がトゥルデューロからアフネサヴィアに移される。その動きを見た瞬間、トゥルデューロは
「教えてもらおうか、アフネサヴィア。あの時、お前はいったいどこにいたんだ」
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