第266話:強制魔霊鬼化の恐怖
淡い
靄内に取り込まれてしまったデランディズは微動だにしない。遅れて、自ら身体を投げ入れたネイレソワラは
靄だけが重層となって
トゥルデューロをはじめ、シュリシェヒリの者たちの動きも止まっている。二人を救えなかった無力感に
「パレデュカル、お前は本気で俺たちを
トゥルデューロの振り
パレデュカルは敵に対して一切容赦しない。それでも彼はかつての親友であり、同郷の者でもある。本気で滅ぼすほどに残酷になれるとは思わないし、思いたくもない。
トゥルデューロは心のどこかで信じているのだ。かつて、ではなく、今もなお親友であることを。信じたいのだ。
「目を覚ませ、パレデュカル。本当のお前は、俺が知っている」
パレデュカルの
「俺を知っているだと。お前に、俺の何が分かるというのだ」
「ああ、そうだな、確かにお前は知っている。ここにいる奴らが幼かった俺に何をしてきたかをな」
エルフ属は純潔主義、すなわち血の
パレデュカルは戦災孤児であり、親兄弟も分からなければ、シュリシェヒリの里の者でもない。暗黒エルフであることも彼へのいわれなき迫害を加速させた。血の繋がりや肌の色で差別するなど愚の極みでしかないにもかかわらずだ。
シュリシェヒリの者全てが彼を差別、迫害したわけではない。この中にはパレデュカルが里を出てから生まれた者もいるし、心優しい者も少なからずいる。
「そ、それは、だが、そんな理由で」
そこまで口にして、トゥルデューロは言葉の選択を誤ったことを悟った。顔から一気に血の気が引いていく。
「そんな理由、そんな理由か。お前までが、そう言うのだな」
心底
「いいだろう。どう
パレデュカルはおもむろに右手を
"Olledes emoniks keperais."
右手が静かに下りていく。その動きに合わせて、二つ目の靄、すなわち上空に
濃い靄の効果は即座に現れた。体積を失って、完全に
「パレデュカル、どうしてそこまで」
言葉が続かない。もはや一刻の
「スコラローティオ、最大の炎をもって今すぐこの靄を焼き尽くせ」
いくらトゥルデューロの言葉であっても受け入れ
「む、無理だ、トゥルデューロ。私には、私には、できない」
渦巻く
「これで二つの手駒の完成だ。さあ、立つがよい」
淡い靄の上に被さった濃い靄が活性化、限界を迎えた膨張が止まるとともに、靄はゆっくりと二つに分かたれていく。
「ああ、デランディズ、ネイレソワラ」
スコラローティオの
「どうだ、トゥルデューロ、素晴らしいだろう。これが力というものだ」
憎しみの
「同じシュリシェヒリの者として、
「慈悲の心、慈悲の心ね。お前たちの口からそのような言葉が出るとはな。笑わせてくれる」
まさしく
里にいた頃、この慈悲をもって接してくれた最愛の者はもういない。パレデュカルは憎悪をぶつけるがごとく、スコラローティオに向けて右手を
いつの間に詠唱していたのか、誰も気づかない。
空を斬って、闇の刃が
「お前もこの二人の仲間にしてやろう。感謝するがよい」
切断部位から漆黒の靄が
淡い靄ではない。直接、濃い靄に包まれていく。いずれにせよ結果は変わらない。その過程が違うだけだ。
スコラローティオの身体は、腐食を経ずして濃い靄によって強制的に作り変えられていく。そこには激しい苦痛と、意識を保ったまま浸食を受けた部分から人としての構造を失っていく恐怖が待ち受けている。
人としての意識が完全に消え失せた時、一体の
「トゥルデューロ、こいつらが何なのか分かっただろう。お前だけではないな。ここにいる奴らもだな」
ゆっくりと動き出したデランディズとネイレソワラに、新たにスコラローティオが加わる。ここに生まれたばかりの三体の
ジリニエイユが長年の研究によって編み出した強制
誕生したばかりとはいえ、
「
三体の
「違う。無造作ではないぞ。こいつらの性質を知っているだろう」
トゥルデューロが周囲の者に向かって声を張り上げる。
「お前たち、覚悟を決めろ。我らシュリシェヒリの者にしかできない使命を果たせ」
それでもトゥルデューロは心を鬼にして使命を果たせと言う。頭では理解できても、心がついていかない。そこに
「逃げろ」
三体の
獲物は、すなわち弱者たる幼い者や年老いた者だ。容赦なく低位の牙が
幼い者たちは初めての
三体の
「ドゥーズレン、べーネロッタ、マウラベージェ
トゥルデューロの叫びだけが
幼き戦士ドゥーズレンとべーネロッタに言葉はない。既に覚悟を決めているように見える。代わって年老いたマウラベージェが苦しみながらもトゥルデューロに視線を転じた。
「トゥルデューロ、我らに構うな。こうなることもまた運命、お前は成すべきことを成すのだ」
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