第253話:母の手に抱かれて
ヨルネジェアから
魔術に
「ルブルコス殿、弟子の不始末は私の責任です。申し訳ございません」
「エランセージュといったか。まだ理解できておらぬようだな」
放心状態のエランセージュを前に、ルブルコスの攻撃はなおも止まらない。相当に
「お前の行使した魔術が引き金となって、このような事態を生じさせているのだ。愚か者めが」
返す言葉を持たないエランセージュは意気消沈、
「弟子に甘くなったか。昔のそなたなら考えられぬ失態であろう」
ビュルクヴィストはルブルコスの言葉に耳を
「返す言葉もありません」
頭を下げつつ言葉を
「彼女を責めるのはそれぐらいでよいでしょう。弟子とはいえ、
言い切るビュルクヴィストの言動にルブルコスは満足げに
色々とよからぬ
「それよりも、イプセミッシュ殿を覆っている光は
「ビュルクヴィスト様、
ビュルクヴィストも明確な答えを持っているわけではない。この場にいる者たちを観察して、推測するしかない。ルブルコスは除外できる。
「恐らくは、あちらのお二人の力なのでしょう。姿は人そのものですが、
ビュルクヴィストたちの視線の先、妖精王女が慎重な足取りでヨルネジェアに近寄っていく。
ヨルネジェアから
「ヨルネジェア、
優しく言葉を
ヨルネジェアはしゃがみ込んだまま、両腕で
泣いている。その姿の何と痛々しいことか。
ヨルネジェア同様に
「私の
静かに口を開き、紡ぎ出すは妖精王女のみが
"Zviaceny meres se-vznaas naeskveen orbozi,
Femrni eitro pynoeus voccinem tyicju,
Tpreyj hevzod psudyperrominn sceroylivo.
Smenerrejk dhreaheg djopkettis,
Dopicallveyta pishkwaje niarugí sevy-matlukys."
☆☆☆☆☆翻訳☆☆☆☆☆
夜のしじまに優しき風は流れ
星々の
母の手に
☆☆☆☆☆翻訳☆☆☆☆☆
「これは」
エランセージュはその先を続けようとしたものの、うまく言葉にできない。意識が声に引っ張られていく。身体が揺れ始め、両のまぶたが重くなってくる。そのまま脱力したかのように、ふらつき、後方へ倒れ込んでいく。
ビュルクヴィストが左手を差し伸べ、エランセージュの細身の小さな身体を優しく受け止める。
「その娘、随分と
ルブルコスの言葉には、先ほどまでの
そう、これはまさしく子守歌、とりわけ泣いている子供をあやすためのものなのだ。
妖精王女の
魔術耐性の高いルブルコスやビュルクヴィストでさえも、気を抜けば眠りへと
"Plamenz vacny se-chjevees tanicnam harmoricke,
Temrnoni noeci plynous jermennie voyikuiw,
Vuneikenre sesirrod dellumojes rokopottlin.
Smenerrejk dhreaheg djopkettis,
Dopicallveyta pishkwaje naruucie klijadys-matlukys."
☆☆☆☆☆翻訳☆☆☆☆☆
夜の暗闇に優しき水は流れ
草花の香りが遍く行き渡らん
愛しき小さな子供たちよ
母の胸に抱かれて穏やかに眠れ
☆☆☆☆☆翻訳☆☆☆☆☆
妖精王女の奏でる調べが半球空間内を満たしていく。詩歌は
大気を流れる風は優しく穏やかに吹いている。大地に咲き誇る草花からは心身を癒す香りが漂ってくる。火と水は
ヨルネジェアも例外ではなかった。詩歌は感情にさえ強い影響を及ぼす。発散していた暴力のごとき魔力の波が次第に落ち着きを取り戻していく。
「静まったようだな」
「そなたたちが
言われたところで、ビュルクヴィストには
「理解しておらぬのか」
「何も告げられないままに転移させられたものですからね。必死に考えていますが、今のところは何も」
歯切れの悪い、答えにならない答えを返してくるビュルクヴィストにルブルコスは
(
別空間として構成されたこの半球空間内に、わざわざ魔術転移門を開いてまで呼び寄せたのだ。当然、レスティーには
ある種の無情さにビュルクヴィストは盛大なため息を
(あちらのお二人はどうやら大丈夫そうですね。魔力質からして、恐らくは妖精でしょう。あの歌は
さすがに魔術高等院ステルヴィア院長だ。状況を素早く見極める力に
まずは魔力の波を暴走させていた妖精の少女を元どおりに戻す。ここから始まる。その役割はもう一人が務めている。そして、ビュルクヴィストは大丈夫だと判断した。
次だ。イプセミッシュは
(
少しずつ
(あの少女が
ここまでの思考ではたと気づく。冷汗が
(まさか、イプセミッシュ殿の肉体は。いえ、むしろ体内と言うべきですね。
導き出した思考の結果に恐れを
「ルブルコス殿、もしやイプセミッシュ殿の体内に何らかの損傷が。しかも、それは」
皆まで言う必要はなかった。ルブルコスの目がそれを
痛恨の極みとでも言うべきか、そこには悔やんでも悔やみきれない思いが宿っている。
「
全て理解した。ビュルクヴィストは天を仰ぐしかなかった。
「何たることだ」
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