第248話:生死を懸けた賭け
右八双の構えを解くことなく、左脚を軸にして身体を宙に躍らせる。渦巻く
イプセミッシュは呼吸を止めた。本来であれば止めるべきではない。この環境下だ。大気を吸い込めば吸い込むほど肺が
やむを
(力はやや落ちるが仕方ない。行くぞ)
イプセミッシュは両手持ちの両刃大長剣を最上段から
かつての師でもあるロージェグレダムの鬼のごとき修業に耐え抜いた末に編み出した己だけの奥義は、まさしく一撃必殺の剣技でもある。名など必要ない。
未完の
「視界などどうでもよいわ。
魔術付与された程度の通常の剣では核を
豪速で振り下ろされた両刃大長剣が
真っ二つに
肉を斬った
一時的に再生が中断されるものの、割断部位の保持を優先した結果だ。
(イプセミッシュ、どうする。それでは奴の核は斬れないぞ)
割断を終えた両刃大長剣を手にイプセミッシュが圧雪路に降り立つ。
その
「意外にやるではないか。それに、よいものを持っている」
先ほどとは逆だ。弾性を最大に、粘性を無に瞬時に変化させた。斬り刻まれて圧雪路に転がる幾つもの粘性液体の
導かれる結果は即時再構築だった。
立ち上がった
およそ百を超えた辺りで
「逃げられはせぬぞ」
高位は勝利を確信している。
ルブルコスは瞬時に気づく。
既にイプセミッシュと
「距離を取れ。触れさすな」
助力はしない。助言だけだ。
万が一にも介入しなければならない事態に
細く鋭い
「さすがに多すぎる。魔力を消費するが、やるしかない」
イプセミッシュの両刃大長剣には三つの魔術が付与されている。
唯一分かるのは剣身を
イプセミッシュは両刃大長剣を握り直すと、付与した魔術の一つを起動する。起動条件は己の魔力を剣に
(
先読みのイプセミッシュらしく、既に結果が見えている。何十もの分岐点がありながら、帰着する先は全て同じだ。すなわち、先にイプセミッシュの力が失われ、
そして、まさにその帰着点に向かって事態が刻一刻と動き出しているのだ。イプセミッシュが十二将筆頭、比類なき武の達人であろうとも、人である限りはいずれ限界を迎える。
「どうした、イプセミッシュとやら。目に見えて動きが
問題は体力ではない。魔力だ。極悪な環境下で動き続けるには絶えず魔力を使わなければならない。さらに剣に付与された魔術を行使するために、さらなる魔力を消費しているのだ。
(魔力消費が大きすぎる。そろそろ限界か)
イプセミッシュの動きに
ルブルコスは左腕に装着した
イプセミッシュの体力、魔力が枯渇するその時をただただ待つだけでよい。
(まずい、このような時に。頼む、私の身体よ、もう少し)
突如としてイプセミッシュの左
「もらったぞ」
この
吐血に加えて、噴き出す鮮血が全身を濡らしていく。イプセミッシュの右手から両刃大長剣が落ちる。
(馬鹿な、あれは。イプセミッシュ、いつからだ)
ルブルコスは初めて
(私の失態だ。魔眼を開いたその瞬間に気づくべきであった)
イプセミッシュの身体を穿った粘性液体の鞭は突き刺さったままだ。それらが不規則に脈打っている。不透明の粘性液体の中を泳ぐようにして何かが移動しているのだ。
「終わりだな、イプセミッシュ。そいつらを生きているうちに引き
「最悪に最悪が重なるか。こ奴、体内に
もはやこれ以上は待てない。ルブルコスは意を決し、
「
ルブルコスがイプセミッシュの心臓めがけて
心臓に突き立てると同時、瞬時に凍結、一時的な仮死状態に置く。そのうえで血管内を心臓に向かって突き進む
ルブルコスにとってもイプセミッシュの生死を
心臓を仮死状態にできる時間は僅か五メレビルだ。それを過ぎてしまうとイプセミッシュの心臓は今度こそ
「行け、
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