第249話:イプセミッシュの救出のために
ルブルコスの手から放たれた
「馬鹿な」
心臓を
ルブルコスは心臓の機能を
「
ルブルコスが
「なるほど、そういうことか。手出しはするな、ということらしい」
妙に納得しているルブルコスは、その表情だけが何とも
「空間に軽々と干渉する能力、やはり
≪気に入ってくれたようで何よりだわ。本来ならば、介入すべきではないのだけれども≫
空間の向こうから直接脳裏に響いてくる声は、
その中に幾分か
≪
説明の代わりに反論が来る。
≪私の
イプセミッシュを中心にして、およそ三十メルク上空の空間が割れていく。割れていくというよりは、むしろ塗り替えられていく、といった方が正しいだろう。
さらに空間の奥、はるか遠くより聞こえてくるのは優しげな鳴き声だ。澄んだ美しい音色が空間を震わせながら徐々に近づいてくる。
≪少しの間、この空間を借りるわよ≫
有無を言わせぬ口調だ。こうなってしまえばルブルコスにできることはない。空間に干渉され、
そして、妖精王女の能力がいかほどのものかはルブルコス自身が熟知している。もはや任せるしかない。
妖精王女はダリニディー森林の最深部から離れることは決してない。主物質界において、その神秘的な姿を
空間が完全に塗り替わると同時、半球空間が生成され、球体内部を構成し直していった。
大気温も高度三千メルクではあり得ないほどの温暖なものとなっている。何よりも闇が遠のき、陽光が差している。
半球空間の頂点、そこに浮かぶのは小鹿にも似た動物だ。妖精王女の怒気がそのまま
頭部から伸びた四本の細い角は天に向かってそびえ立ち、
「これは珍しい。
つぶらな栗色の瞳が粘性液体の
イプセミッシュには、降り立ったその生物が何か分からない。体内に侵入した無数の
ゆっくりと血管内を
そうなれば、
全く容易ではない。
侵入時点では極小、血管内に入るや血を飲み干し、そして魔力をも食う。またたく間に
心臓に
≪何をしているのよ。こんなところで終わるつもりなの≫
声には出さない。直接、イプセミッシュの脳裏に言葉を刻み込む。脳の
≪何とか言いなさいよ、イプセミッシュ。
イプセミッシュは嬉しさのあまり、身体が熱くなっている。目は見えずとも、この声、この口調を忘れるものか。変わらない。あの当時のままだ。初めて出会ったのはおよそ十年前、ダリニディー森林の最深部に建つ妖精王女の館だった。
イプセミッシュの身体は筋肉の一つ一つが
≪脳裏に言葉を浮かべるのよ。それで私には通じるから。さあ、やってみて≫
≪ようやくの再会というのに、このような
最初に謝罪から入る。頭を下げたくとも、それも
人の姿だったら、盛大なため息が出ていたに違いない。
≪ねえ、それが最初の言葉なの。もっと他になかったのかしら。ほら、何かあるでしょう≫
彼女の不機嫌さがはっきりと伝わってくる。イプセミッシュは途方にくれるしかない。
気に
≪ヨルネジェア、君は、もしかして、怒っているのか≫
気が抜けたかのように、雷光を
≪もう、貴男って本当に変わらないわね。気の
見つめ合う二人の間には、言葉以上のものが浮かんでは消え、浮かんでは消え、している。およそ十年分の想いが行き
≪妖精王女殿よ、このまま放っておいてよいのだろうか。いや、よくないであろう。この場の雰囲気に全くそぐわないのだからな≫
遠慮がちとはいえ、さすがにルブルコスも
≪そうね。少し甘い時間を与えすぎたかしらね。見守ってあげたい気持ちもあるけど、まずはイプセミッシュを救うことを優先しましょう≫
告げるや、妖精王女の行動は素早かった。むしろ準備のための時間をヨルネジェアが
半球空間に柔らかく降り注ぐ陽光がゆっくりと変成していく。斜めに差していた陽光は真上から一直線に
本来、八つの色から
≪ヨルネジェア、発動させるわよ。最後の一つは貴女にかかっているわ。しっかりやりなさい≫
ヨルネジェアの顔に緊張が走る。息を
ダリニディー森林から動けない妖精王女は、己の分身としてヨルネジェアを遣わしている。当然、
今や半球空間頂点より降り立つ光幕が一つ
"Or-pnia sedibar eneiyo vellia, akivojenie."
妖精王女の
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