第247話:イプセミッシュの死生観
四つの核を失ったとはいえ、
ルブルコスを、
今、こちらに向かって猛然と
肉体が強化されていようと、
魔術付与された剣を手にはしている。気にするほどもない。男が有する魔力は質も量も、先ほどまでの魔剣士と比べれば、天と地ほどの開きがある。
すなわち、
「俺の勝利は揺るがない。問題はあの男だ」
この男が死んでも気にならないのか、あるいは何か策でもあるのか。いや、策を
絶対的強者が持つそれに類似している。二対一などあり得ない。懸念材料と言えば、向かってくる男を
「そこの魔剣士の男よ、取引をしようではないか」
よりによって、
「止まれ、イプセミッシュ」
気が変わったのか、ルブルコスの鋭い声が飛ぶ。イプセミッシュは
全速力で駆けていたイプセミッシュは急制動をかけ、
「私が納得するだけの取引材料を出せるのか、お前に」
左腕に装着した
ルブルコスの変化のない表情とは対照的だった。
それを
それはすなわち消滅、死を意味する。これほどまでに緊張したことは一度もない。他の
思わず
「俺の持てるものなら何だって差し出そう。その代わり」
ルブルコスの鋭い視線によって言葉を切られる。透き通る
「
続きを言う必要はない。どうなるか分かっているのだから。
「ない。俺の命は既にそこもとの
あまりに
確かに、ルブルコスが
「どちらが先だ」
端的にしか述べない。問答は不要だ。
「俺からだ。これから、この男との一騎打ちなのであろう。そして、俺が勝ったら」
「この場を見逃せとでも言うつもりか」
機先を制する。ルブルコスが冷酷な
「こちらの条件を告げよう。お前の
ルブルコスにとって悪い取引ではない。むしろ歓迎すべき内容でもある。
この一騎打ちでイプセミッシュが勝てば、労せずして
「分かった。それで見逃してくれるなら、俺の
(やはり裏があるな。こ
今は考えたところでどうにもならない。いざとなれば介入して滅ぼしてしまえばよいのだ。ここから先、ルブルコスはイプセミッシュに丸投げすることに決めた。
「よかろう。そこの小僧だ。名をイプセミッシュという。お前が勝てたなら、
初めて
さすがにロージェグレダムの修業を受けただけのことはある。記憶が戻る前、一度
「イプセミッシュ、ここからはお前と
告げるなり、ルブルコスは瞳を閉じる。肉眼で見る必要はない。魔力を通して
「取引は
イプセミッシュが剣を構える。最も得意とする必殺の
それを補うためには魔力を燃やすしかない。魔力を燃やせば燃やすほど、体力の
右八双に構えた愛用の
いささかのぶれもない。美しい
両腕を組んだまま、構えもしない
(ウェイリンドアよ、
イプセミッシュと
(ルブルコス殿がここまでお
心を解放する。
イプセミッシュの死生観は記憶が戻ると同時に
今は違う。友の、仲間のために、己も生き抜きたい。
(私の生還を待ってくれている友がいる。仲間がいる。死ぬわけにはいかないのだ。だから、私は勝つ)
イプセミッシュは剣を最上段に置いたまま、およそ五メルクを一気に
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます