第245話:雪氷嵐に哀情を載せて塵と還る
静寂だけが支配している。
ロージェグレダムもゴドルラヴァの姿を
無音となった空間に再び音が戻ってくる。息を忘れていた
先に動いたのは、
二人の動作とはまさに対照的な光景だった。
ロージェグレダムが
氷雪嵐はさらに勢いを増し、動いたロージェグレダム、動かぬ
まるで身も心も
七つの核は
「ロージェグレダム殿、感謝する。これで心残りは何も」
「ないわけがないじゃろう」
「済まぬ。ゴドルラヴァ殿、
両腕が塵となって大気へと運ばれた。次いで両脚が崩れていく。
分裂したゴドルラヴァの記憶は分解され、
結果として、
ゴドルラヴァの身体はもはや存在しない。
ゴドルラヴァはそれを望んでいない。もはや完全なる消滅をただ待つだけなのだ。だからこそ、
≪長くはもたぬぞ≫
「ロージェグレダム殿、貴殿のおかげで私は今一度一つになれた。この記憶はこれまで生きてきた中で最も心地よい」
両脚が大気にさらわれ、残るは頭部と胴体のみとなった。胴体が両脚つけ根部分から失われていく。
「貴殿に
ゴドルラヴァは人ではない。
胴体が完全に失せた。頭部を残すのみだ。ゴドルラヴァの顔を持つそれは、
「もし、生まれ、変わ、れる、なら」
途切れ途切れの言葉が
「人に、そうだ。人に、なり、たい、もの、だ」
口が、鼻が、目が失せ、そしてゴドルラヴァの全てが塵に還る。最後の言葉とともに雪氷嵐に抱かれ、空に舞い上がっていく。
≪私の記憶は永遠に貴殿とともに。さらばだ、ただ一人の友よ≫
声ではない。直接心に響く音となってはっきり伝わってくる。ゴドルラヴァの最後の意思は、しかとロージェグレダムの心に
胸内に大切に仕舞いこんでいたゴドルラヴァの
その姿は、塵となって流されていったゴドルラヴァに対する祈りのようでもあった。
「儂からの
両の手のひらから炎が噴き上がる。それは三つの炎、すなわち
「ゴドルラヴァ殿よ、受け取るがよい」
ロージェグレダムは自ら創り出す炎熱を完璧なまでに制御する。低温から高温まで、形状も炎熱を注ぐ範囲も自由自在、だからこそ
ゴドルラヴァの
「お主の心は儂の炎熱で
「儂の心は常にお主の
宙に浮かぶ
次いで
美しくも
(
それはどこまでも続く余韻となって、ロージェグレダムの心の内に刻み込まれていった。
(済まぬな、友よ。儂には、これぐらいしかできぬ)
天高きところでゴドルラヴァの顔が
≪貴殿からは既に十分なものを頂戴した。これ以上に望むものはない≫
まさしく
ゴドルラヴァは
≪ロージェグレダム、かの者の魂が混沌に還るか
レスティーの言葉に
三剣匠にとっての大師父ことレスティーは、できぬことなど何もないというほどの、まさしく神のごとき存在だ。そのレスティーをもってしても、見通せないことがあるなどとは信じられない思いなのだ。
あわよくば
何よりもレスティーにとって、いかなる境遇であろうと
≪私とて万能ではないのだ。そなたたちから見ればそのように見えるだろうが、できぬことの方が多いであろう。そなたの願いもその一つだ。私の力をもって
何と浅はかだっただろうか。大師父たるレスティーにこのようなことを言わせてしまうとは何たる不敬だ。無礼にもほどがある。
ロージェグレダムは慌ててその場に両
≪立つがよい。何度も言っているが、私にそのようなことをする必要はない≫
言葉の向こうで苦笑を浮かべているレスティーが見え隠れする。
染み込んだ
許しを得たロージェグレダムが立ち上がる。その姿を確認したレスティーの意識が消えていく。
雪氷嵐の中に黙したまま
≪貴様、泣いておるのか≫
ロージェグレダムは笑って答える。
「儂が泣くはずもなかろう。これは、そうじゃ、汗じゃな」
この強がりめが。
何かともめることも多いロージェグレダムと
「さて、仕上げといこうか」
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