第217話:茫然自失のセレネイア
放つは、
マリエッタが持つ最も威力が弱く、射程の短い火炎系魔術だ。それでも、火力を最低限に抑え込まなければならない。
セレネイアに、いやセレネイアが
この際、多少の
ルシィーエットから魔術を学ぶマリエッタは、当然のごとく、その手の
「私の短節詠唱で、どこまで加減できるか。今は考えている時間もありません」
すぐさま、
「リーエ・ディ・ザローミ
炎来たりて
マリエッタは精神を集中、即座に短節詠唱を成就させる。
助言を与えてくれるであろうグレアルーヴは、爪を放つと同時、ジェンドメンダに向かって
迷っている暇もない。
火力制御の具合を知るなら、シルヴィーヌこそが適任だろう。彼女ならば、魔力の流れを明瞭に視認できるからだ。余裕がない現状では、それも無理な相談だった。
「行くわよ」
魔術を解き放つ寸前だ。シルヴィーヌが咄嗟に待ったをかける。
「駄目です。セレネイアお姉様を焼き殺すおつもりですか」
思わず踏み
「マリエッタお姉様、全然制御ができていません。もっと火力を絞ってください」
黙っているつもりだった。
マリエッタの構築した
こうなってしまえば、マリエッタはシルヴィーヌの言いなりになるしかない。もともと口では絶対に妹に
「や、やってるわよ。これで、精一杯なのよ」
「お姉様、時間がありません。問答無用で私の指示に従っていただきます。右手を三十セルク外へ」
矢継ぎ早に指示を飛ばしていく。右手に続き、左手をやや下に移動、マリエッタ自身を三歩後退させる。
「そこです。マリエッタお姉様、狙いはお分かりですね」
言われるがまま、微妙な
「もちろんよ。お姉様が握る
上出来だと言わんばかりに
深いため息を一つ、マリエッタは魔術を解放するのだった。
「今度こそ、行くわよ。シルヴィーヌ、誘導でも何でもしなさいな」
マリエッタもシルヴィーヌも、放たれた
なおさら、ここからはシルヴィーヌの力に頼ることになる。今、シルヴィーヌは
セレネイアが、ジェンドメンダとトゥウェルテナを
大気の力が解放される。
マリエッタはセレネイアの美しい剣技に
「そこよ」
「えっ、どうして」
本来ならば、
セレネイアは茫然自失状態にある。自分に起きたことが
「マリエッタ、貴女」
その後の言葉が続かない。
立ち尽くすセレネイアに声をかけたのは、まさにセレネイアが
「セレネイア第一王女殿、下がるがよい。ここにそなたの出番はない。そなたの妹が取った手段は、まさしく最善であった」
セレネイアには、グレアルーヴの言葉の意味が理解できない。その思いを
「妹が、マリエッタが、私に向けて魔術を放ったことが、最善だと
グレアルーヴがセレネイアに視線を向けることはない。こうして会話していること事態、かなりの危険をはらんでいるのだ。
今、ジェンドメンダと相対しているのは他ならぬグレアルーヴであり、
一目見れば、決して油断できない敵だと分かる。グレアルーヴがセレネイアのために短く言葉を継ぐ。
「妹二人には、しかと
セレネイアは
「セレネイア第一王女、グレアルーヴの言ったとおりだ。まずはそこから下がれ。戦いに巻き込まれるぞ」
(弱々しいな。妹からの攻撃だ。まさか、というところか。だが、そんなことでは先が思いやられるぞ)
さすがに、ザガルドアも言葉にはしない。それでなくとも、今のセレネイアは完全に戦力外と化している。立ち直らせるためには、自分では駄目だ。妹二人の力こそが必要だ。
その前にやることがある。何を置いても、ジェンドメンダの始末だ。ディグレイオがついているとはいえ、トゥウェルテナの状態も気にかかる。
「陛下もお下がりを。この者は俺が仕留めます。獣人族の誇りに
ザガルドアは力をなくしたかのようなセレネイアを
「その
ジェンドメンダの性質からいって、攻撃を仕かけてきても何ら不思議ではない。むしろ、弱者から徹底して排除していく男だ。そういう意味では、トゥウェルテナもセレネイアも絶好の標的だったはずなのだ。
「
これまでとは様相が違う。ジェンドメンダには、どこかふざけた、相手を馬鹿にした態度があからさまに浮き出ていた。それが一切なくなっている。真剣そのものだ。
「二度と、あの時のような無様な姿は
一切の
「俺はグレアルーヴ、ゼンディニア王国が誇る十二将序列四位にして獣騎兵団団長を務める」
二人が、激突する。
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