第212話:二人の攻防はなおも続く
一人で問題ないと
カイラジェーネのためにも、必ずジェンドメンダは一人で倒す。改めて、トゥウェルテナは一対の湾刀を構え直す。
一連の流れを見つめていたセレネイアは、
嫉妬は、別の意味でもう一つある。
「何と美しい舞いなのでしょう。
心の葛藤が
複雑な思いで見つめるセレネイアをよそに、トゥウェルテナとジェンドメンダ、二人の攻防は続く。これからがいよいよ本番だ。
「やるな、女。
トゥウェルテナは無言だ。完全無視状態を貫く。ジェンドメンダが言葉を発して以来、常に違和感がつきまとっている。
(私の本能が告げているのよね。意識を
ジェンドメンダは気にも留めていなかった。術中に
今やトゥウェルテナを最優先すべき獲物と定めている。視線はおよそ彼女に注がれているものの、それだけではない。
(この女、我の術に気づいたか。あるいは本能で回避したか。あとの女どもは)
ジェンドメンダが動く。狙うはトゥウェルテナではない。
「まずはお前だ。我は子供に興味はない。すぐさま
トゥウェルテナの視界から瞬時に消える。ジェンドメンダはほぼ真横に跳躍、身体を反転させつつ、妖刀を振り上げる。
「シルヴィーヌ」
「第三王女」
セレネイアとザガルドアの声が重なり、そこへマリエッタの声も被さった。
「この私がさせると思って。シルヴィーヌに手を出す者には容赦しないわよ」
マリエッタの右手首を飾る腕輪が勢いよく炎を上げた。
(だからこそのこの腕輪なのよ。ルシィーエット様より頂戴した魔導具の力、思い知りなさい)
噴き上がった炎が、再び焔のアコスフィングァを
ジェンドメンダは炎をもろともせず、真っ向から挑んでくる。妖刀はまだ上段だ。
「小娘ごときの炎が、我に通用すると思ったか」
口角が大きく上がった。
「行きなさい」
構築が完了した焔のアコスフィングァが、強烈な炎の羽ばたきをもって急上昇する。マリエッタの合図を受け、そのまま一気にジェンドメンダめがけて突っ込んでいく。
「第二王女、気をつけろ。奴はツクミナーロ流の剣を使う」
高温の炎を浴びせながら、焔のアコスフィングァの鋭い
(承知していますわよ、ザガルドア殿)
マリエッタに一切の油断はない。
ジェンドメンダは上段の妖刀をすかさず胸前に落とした。斬るのではない。突きの姿勢を取ったのだ。上空から襲い来る炎の嘴に向けて、妖刀を
「やりますわね。それも想定済みですわよ」
切っ先が炎の嘴と一直線で結ばれている。あの刹那に、ジェンドメンダは突き出す角度を正確に
「小娘、面白い炎の攻撃であった」
炎の嘴を押さえ込まれた焔のアコスフィングァは、その位置から微動だにできない。ジェンドメンダと相対しているマリエッタたちは、坑道でのハクゼブルフトとの戦いを見ていないのだ。知っていたなら、別の方法もあっただろう。
「構いませんことよ。私の目的はシルヴィーヌからお前を遠ざけることです。それに、お前の相手をするのは私ではありませんからね」
焔のアコスフィングァを後退させると同時、ジェンドメンダの上から剣が振ってくる。
「私を無視するなんて、連れないわね」
一対の湾刀が不規則な軌道を描いて落ちてくる。またも剣軌が全く読めない。
「光陰の舞は、まだ終わっていないのよ」
ジェンドメンダも炎の嘴を封じていた妖刀を引くと、すぐさま左足を軸にして大きく横っ飛び、トゥウェルテナの湾刀から逃れる。
剣軌が読めないのだ。そこに刃を合わせにいく馬鹿はいない。空振りさせた後の隙を狙う。
ジェンドメンダは妖刀を中段に構え直し、トゥウェルテナの着地を待ち構える。
「女、もらったぞ」
「甘いわね」
トゥウェルテナも読んでいた。仮にも、ジェンドメンダは破門されたとはいえ、ツクミナーロ流の元師範なのだ。剣の力量は確かなものだろう。
剣技もまた魔術と同様、
トゥウェルテナは、あえてその隙を作ってみせた。ジェンドメンダなら必ず誘われる。確信をもってのうえだ。
舞いの呼吸は、なおも続いている。
剣軌を見せないトゥウェルテナの湾刀は、気づいたら眼前に突如として出現している。ジェンドメンダは
「
ジェンドメンダは七人の
新たな命を授けてくれたジリニエイユを神と
坑道でカイラジェーネに助けられ後、ジリニエイユから改めて受けた厳命は、ラディック王国三王女の始末だった。ジリニエイユが
ジェンドメンダはただただ弱き者、中でも女を
坑道では、真っ先に目をつけたトゥウェルテナを殺し
今、最も弱い存在として一番目に殺すはずのシルヴィーヌをも始末できていない。二番目の標的としていたマリエッタに至っては、かなり強力な魔術師ときている。
最後の楽しみに取っているセレネイアは、一目見た瞬間に気づいた。恐ろしいほどの
思いどおりにいかないことがあまりに連続している。ジェンドメンダは頭に血が上った状態だった。
弱者を
こうなっては、なりふり構ってなどいられない。ジェンドメンダは、初めて
(様子が変わったわね。奴の妖刀に魔力が。来るわね)
分かっていながらも、トゥウェルテナは止まらない。舞いの動きを継続しながら、目に
(今度は逃さないわ。核の動きを最後まで見極める)
最初は左目の奥に核を
今また
迷いなく行く。一対の湾刀がジェンドメンダの肋骨を左右から切り結ぶ。ジェンドメンダが気づいた時には、湾刀の刃が肉に食い込み、音もなく軽々と切り裂いていた。
トゥウェルテナは左右の湾刀を交差させながら振り抜くと、ジェンドメンダと
またもや、核を断ち斬った
トゥウェルテナは右脚を軸に半回転、時を置かず舞いの動作に入る。
初めてジェンドメンダの反撃が来た。超高速の
トゥウェルテナは一対の湾刀を羽のように広げ、舞った。舞いは実に
光陰の舞は文字どおり、二つの顔を
ジェンドメンダが放った斬撃の刃は、ことごとくがトゥウェルテナの湾刀に
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