第200話:崖下へと向かう者たち
グレアルーヴとディグレイオを
「セレネイアお姉様、シルヴィーヌ、私たちも急ぎ参りましょう」
先頭に立って号令をかけるマリエッタが愛らしい。セレネイアは日々成長を続けている妹の姿を頼もしく見つめた。
「ええ、そうね。私たちも行きましょう」
ここで
「マリエッタお姉様、ちょっと、ちょっと待ってください。私たちも、あの方たちのようにここから飛び降りるというのですか」
シルヴィーヌは高所が苦手だった。
疑いもなく空騎兵団の有翼獣で運んでもらえるとばかり思っていた。まさか、獣騎兵団の二人がいきなり飛び降りていくとは予想していなかったのだ。
「シルヴィーヌ、何を言っているのよ。私たちは谷底ではなく、その途中の
「む、無理です。絶対に、無理です。絶対に、私は飛び降りませんよ」
少し離れたところで、このやりとりを見つめていたイオニアが深いため息をついている。
「三王女は、いつもあのような感じなのか」
ザガルドアの問いかけに、苦笑
「いや、今回ばかりはマリエッタとシルヴィーヌの立ち位置が逆転しているといったところだ」
普段はおっとりしているマリエッタは、自身が得意とする火炎系魔術に打ってつけの
何よりもフィリエルスたち空騎兵団と共に戦えることがよほど嬉しいのだろう。
逆に、シルヴィーヌは
「あれが普段の姿だとは思わないでくれ」
イオニアの話を聞いて、
「俺に考えがある。少しばかり手荒な真似をすることになる。許してくれるか」
記憶が戻ってからというもの、イオニアはこの青年国王を好もしくも思っているのだ。
「ザガルドア殿の言葉を信じよう。シルヴィーヌを頼めるか」
「フォンセカーロ、来い。あれをやる」
さすがに驚きを隠せない。
陛下たるザガルドアが、やると決めたのだ。
「ハベルディオ、ウドロヴ、グリューディン、すぐに用意しなさい。谷底に下りますよ」
この三人は、事前視察の際の汚名返上とばかりに自ら志願、この地にやって来ている。
「準備万端です。号令一つで今すぐにでも飛び立てます。我らはラディック王国の方々をお連れすればよろしいですか」
代表してグリューディンがフォンセカーロに尋ねてくる。
「
了承の返事をもって、三人が自身の
有翼獣は大人しくしている。暴れていないということは、降下に問題がないということだ。
「陛下、私も行きますわ。ソミュエラとブリュムンドは途中で拾えばよろしいですわね」
確認を求めてきたフィリエルスに、ザガルドアは疑問で返した。
「途中か。ここから騎乗させていくわけではないのだな」
即答で返す。
「そうですわ。だって、面倒でしょう。ソミュエラ、ブリュムンド、先に飛び降りなさいな。そうね、ある程度落下したとして、高度千メルク地点で拾ってあげるわ。貴方たちなら何ら問題ないでしょう」
空のことは自分が決める。序列二位、しかも空騎兵団団長のフィリエルスだからこその言葉だった。まさにフィリエルス強しだ。
「ええ、問題ないわよ」
「俺も異論はない。もうよいのか」
ザガルドアは
フィリエルスが
愛騎のアコスフィングァが両翼を大きく広げて
「空騎兵団、私に続きなさい」
その様子をマリエッタだけでなく、セレネイアもシルヴィーヌも凝視している。最も熱い視線を送り続けていたのは、言うまでもなくマリエッタだ。
「素敵です、フィリエルス殿」
その
ソミュエラとブリュムンド、先に走り出したのはブリュムンドだ。数歩の助走で一気に
「全く、あの二人は何をやっているのでしょうね」
深いため息が
ブリュムンドが飛び去ったのを
≪済まん、ソミュエラ。一匹、打ち漏らして
ディグレイオからの念話が届いたのだ。
「仕方がありませんね。託されたからには受けましょう」
改めて駆け出す。
「陛下、ご武運を」
「ああ、お前もな、ソミュエラ」
背に負った二本の剣に両手を添える。ソミュエラは、そのまま後方斜め上に飛ぶと空中で抜剣、頭から落下していった。
そこへディグレイオが打ち損じたという
「好都合です。フィリエルスに拾ってもらう前に終わらせておきましょう」
右手に持つは
急降下しているソミュエラと、急上昇している
「うるさいですね。大人しく死になさい」
先に振るうは、
すれ違いざま、ソミュエラは足下に置いた
剣身から発せられる氷が
氷の
この程度の力で封じられたということは、
必然的に上昇していた
既にソミュエラと
ソミュエラを追い越すのも時間の問題だった。
「それで十分です。核もろとも灰まで焼き尽くしてあげます」
落下速度を増した
剣身を覆う
ソミュエラが落下を開始してからここまでで、
フィリエルスが定めた合流地点、高度千メルクに到達するまで、さらに十六フレプト程度、十分すぎる時間だった。
「心配は無用ですよ。既に終わっていますので」
ソミュエラは二本の剣を納刀している。
荒れ狂う炎が
さらに勢いを増した炎は膨大な熱を
残されたものといえば、双三角錐の核が二つのみだ。炎が容赦なく核をも飲み込んでいく。
「待たせたわね。準備はよいかしら」
「ええ、問題ありませんよ。うまく拾ってくださいね」
フィリエルスの
ソミュエラもアコスフィングァの動きに合わせて魔術制動を働かせた。身体を反転させ、足下からゆっくりとアコスフィングァに向かって近づいていく。
その間、フィリエルスは
「行くわよ。しっかり
先に落ちていったブリュムンドを拾うため、フィリエルスは再びアコスフィングァを急降下させていった。
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