第197話:二千余年の生涯に悔いなし
坑道出口の封印を
一行が目にしたのは、地形の
空をも貫いて天頂まで果てなく伸びる
等しく皆が見上げる中、ただ一人、トゥウェルテナだけが微動だにしなかった。呼びかけられたのだ。
他の者には見えていないのか。気づいているのはトゥウェルテナだけだ。
「ああ、カイラジェーネ、エトリティア、ようやく出会えたのね」
涙と言葉が自然と
≪トゥウェルテナ、有り難う。リティとまた巡り合えたわ。これも貴女のお陰よ。貴女の美しい舞いに心を奪われた
カイラジェーネの声が響いてくる。言葉の
≪砂漠の民を託したわよ。貴女なら、きっとできると信じているわ。もしも貴女に何かあった時は、必ず私たち二人が力になるわ。
カイラジェーネに続いて、エトリティアの
金色の
≪砂漠の民は私に任せて。二度とこのような不幸が起きないように頑張るから≫
二人が
≪さようなら、エトリティア、カイラジェーネ。私、貴女たちの分まで頑張るから。そして、幸せになってみせるから≫
そして、光が爆散した。
あまりの
光と輝きが消え去った後も、トゥウェルテナは
「お別れは無事に済んだの、トゥウェルテナ」
十二将内で、セルアシェルとトゥウェルテナはとりわけ仲がよい。セルアシェルはカイラジェーネとの戦いで、ほとんど役に立てなかったことを
突き抜けた感のある十二将だ。二人は比較的、
「ええ、みんなのお陰で済ませることができたわよ。セルアシェル、いつも気遣ってくれて有り難う」
ようやくトゥウェルテナらしさが戻ってきたか。振り返って見せる笑みに
少し離れたところから見守るヴェレージャやディリニッツたちも、一様に安堵している。
「何とか谷底まで
谷底は永久凍土だ。周囲の岩石にまで
寒さが苦手な者にとっては、
「エランセージュ、寒くはないの。貴女のことだから、慣れているのでしょうが」
ヴェレージャも本気で心配しているわけではない。寒冷地育ちのエランセージュが寒さに強いのは、十二将の間で周知の事実だ。
普段は分厚く着込み、顔の一部を除いて一切肌を見せない彼女が上着を脱いでいる。上着の下はかなりの薄着だ。美しい肌が透けて見えている。いささか目のやり場に困る状況でもあった。
「あらあ、エランセージュ、珍しいわね。でもお、これはちょっと反則かしらねえ」
からかい半分、同じ女として嫉妬半分といったところか。これもまた十二将の日常茶飯事、誰も気にしていない。
嫌がるセルアシェルの腕を引っ張りながら、トゥウェルテナはエランセージュの薄着の上から、その透明感溢れる肌を凝視、何かにつけて
トゥウェルテナとエランセージュは、生まれも育ちも好対照の二人だ。まさしく火と水、正反対すぎて合わないと思いきや、意外に相性がよかったりする。
ここが人の摩訶不思議なところでもある。
戦場とは思えないほどに
「ご談義中に
ギリエンデスを先頭に、死霊の軍団が整然と居並んでいる。既に彼らの姿は透明度を増しながら薄れていっている。
「ギリエンデス殿、私たちこそ感謝しています。伝説の魔人族たる貴方たちに出会え、共に戦えたことは誇りです。時間さえ許されるなら、ゆっくり語り合いたかった。その思いでいっぱいです」
感謝の気持ちを伝えるヴェレージャに続いて、ディリニッツが言葉を発する。
「ここまでと言わず、この先も共に戦えないのでしょうか。
ディリニッツの思いは切実だ。
さらに戦いが激化していく中、
坑道組には、この目を有する者は一人もいない。それが現実だ。
「貴殿のお言葉は我らにとって
それ以上の言葉は必要なかった。
互いの思いを刻み込み、見つめ合う。自然と胸が熱くなっていく。
「ギリエンデス殿、身体が」
見つめる者たちの声が重なる。ギリエンデスの全身が、死霊団の一群が金色の光にゆっくりと包まれていく。
「お別れです」
≪ギリエンデス、よくぞ最後の使命を果たしてくれた。刻は満ちた。そなたを解放する。配下の者たちも同様にだ。混沌に還るがよい≫
レスティーの言葉が
ギリエンデスを中心にして、
死霊の軍団が
「ギリエンデス殿、別れの言葉はあえて言いません。いつかまたどこかでお会いできると確信しています。それまで安らかに」
皆の気持ちを代弁したのはディリニッツだ。
ギリエンデスの身体も仮初のもの、姿がゆっくりと薄れ、
≪我が二千余年の生涯に悔いはございません。我が心の主レスティー様、貴男様に最大限の感謝を捧げます≫
≪ギリエンデス、これまで大儀であった。安らかに眠るがよい≫
金色に輝くギリエンデスの姿が完全に
≪Menre-kaaosen ymupyrin poaljusen.≫
さながら彗星のごとく、盛大に光の尾を散らしながら、瞬く間に視界から消え去っていった。
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