第170話:魔術方陣による封印
剣が
輝きが次第に弱まるにつれ、軌跡も薄れ、肘や腹部などから大量に
ヨセミナがヴォルトゥーノ流現継承者として戦う際にのみ手にする
「傷は
剣を
どの流派も同じ問題を抱えている。三剣匠とそのすぐ下に位置する筆頭とは、あまりに力量が開きすぎている。
ロージェグレダム、ルブルコス、ヨセミナの三人は、天性とも言うべき素質を持ち合わせ、そのうえで
三人に共通して言えるのは、決して剣匠を目指していたわけではないということだ。気づいた時には、いつの間にかその地位に立っていたのだ。
(頭の痛い問題だな。この戦いが終われば、そろそろ次期後継者を選ばねばならんというのに)
ヨセミナは頭を抱えつつ、次なる言葉を発した。
「ワイゼンベルグ、お前をここに連れて来た本来の目的だ。探し出してくれ。お前の目をもって」
止血が完全に終わったワイゼンベルグが左手で
「我が女神ヨセミナ様、既に見つけております
足早で向かうワイゼンベルグの後をゆったりとした足取りでついていく。ヨセミナの視線は一定方向から動かない。それでいて、彼女の気は全方位に向けられている。
もう数体の
ちなみに、ヨセミナならワイゼンベルグが戦った
「こちらになります」
ワイゼンベルグが案内したのは、比較的なだらかな
「この一帯のみが、我らドワーフ属の間で
ヨセミナは言葉を返すことなく、それで、といった表情をもって続きを促す。
「
「なるほど。その
ワイゼンベルグが強く
「人為的に
そうは言われても、岩石の詳しい知識などさすがのヨセミナも持ち合わせていない。形状や色はもちろん、手に取れば重さの違いぐらい分かる。
「
ワイゼンベルグの言葉を
ルブルコスほどではないが、ヨセミナもそれなりの魔力量を有している。肉眼で
「これは。魔術陣か。しかも、通常の円陣ではなく、方陣だな」
およそ三メルク四方の正方陣が展開されているのだ。陣の
「さすがは我が女神ヨセミナ様です。まさしく
ヨセミナは思案さえせず、即座にワイゼンベルグに命じた。
「この方陣は、内から外ではなく、外から内への侵入を
これこそがワイゼンベルグを伴った最大の理由だ。ヨセミナに課された使命は、高度二千メルク地点にあると言われる坑道の入口を探し出すことだった。
アーケゲドーラ大渓谷を訪れる者がほとんどいないとはいえ、これまで誰の目にも触れず、存在さえ知られていないのは明らかに異常だ。
恐らくは魔術で
彼の岩石を見極める目、魔術付与を施せる技術、両方を兼ね備えた彼こそがまさに打ってつけだったのだ。
「できるな」
ワイゼンベルグの返答を待たずして、ヨセミナは邪魔にならない位置まで下がった。できない、などとは一切思わない。この分野に関して、ワイゼンベルグの右に出る者はいない。ヨセミナはただ待つだけだ。
「お任せください、我が女神ヨセミナ様」
早速行動を開始する。まずは要となっている四角からだ。ワイゼンベルグには膨大な魔力が方陣内に
魔術付与師は、単純に特定の物質に魔術を注ぎ込むだけが能力ではない。物質に
一流と呼ばれる魔術付与師は、この二つができてこそだ。ワイゼンベルグは微動だにせず、意識を四角の晶瑪玉カルツァトに集中させている。表情が次第に険しくなっていく。
「我が女神ヨセミナ様、この魔術方陣を築き上げた魔術師は、途轍もなく性格が悪そうです。
結果として、どうなるか。自明の理だ。坑道は崩落、大量の土砂に埋もれ、二度と使いものにならなくなる。それでは、ここまで出向いてきた意味がないのだ。
一難去ってまた一難か。ヨセミナは大きなため息をつくしかなかった。
「どちらだ」
単刀直入に尋ねる。できるか、できないか。答えは二つに一つしかない。
ワイゼンベルグは、
外周は全て解封できるだろう。問題はそこからなのだ。方陣内に描かれた複雑な
築き上げた魔術師を
中央に配置された特大の
(困ったことになったな。これでは、大師父様からの依頼を達成できないではないか)
ワイゼンベルグに無理ならば、それを可能とする人物は、ヨセミナが思いつく限り二人しかいない。一人は大師父たるレスティー、もう一人はルプレイユの賢者だ。
ヨセミナは、当代ルプレイユの賢者コズヌヴィオの実力を知らない。先代ルプレイユの賢者オントワーヌとは親交も深く、彼の力ならば熟知している。
オントワーヌがこの場にいたなら、ワイゼンベルグではなく、真っ先に彼に解除を依頼していただろう。
≪ヨセミナ、陣に触れず距離を取るのだ。まもなく、魔術転移門が開く≫
今、最も聞きたい声が脳裏に響いた。ヨセミナは即座にその場に片
≪大師父様、
「ワイゼンベルグ、何もするな。今すぐ陣から離れろ」
ワイゼンベルグにとって、ヨセミナの言葉は絶対だ。理由を問う必要もない。言われるがままに、方陣に向けていた視線を切ると、その場から大きく距離を置いた。
夜の大気を裂いて空間に亀裂が走る。硬質音を響かせながら、
「お久しぶりですね、ヨセミナ。貴女と会うのは、およそ五十年ぶりでしょうか」
懐かしい声が門の中から聞こえてくる。
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