第166話:高度二千メルク地点の戦い
残った
両横にいた二体が、何もできないまま滅ぼされた様子を見ていたはずだ。それでも全く意に介していない。
目の前に立つ小男を食らい尽くす。それだけに意識が向けられている。
相対するロージェグレダムは、
それが
「残念じゃ。期待したものの、
迫り来る
粘性液体を大量に固めた両腕を
「がっかりじゃ。つまらぬにも、ほどがあるじゃろう」
谷底に異様なまでの水蒸気が立ち込めた。完全に視界が
「終わったな」
視界が閉ざされようとも、ルブルコスには全て
左手の
左手に
ロージェグレダムは手首だけで剣身を大地と平行、すなわち低位に対して垂直に傾ける。重力に逆らわず、手首の力を緩めた結果、
紙を
切っ先が凍土を削り取ったところで、ロージェグレダムが手首を軽く返す。断ち切った軌道そのままに剣身が
続けざまに繰り返すこと四度だ。五等分に輪切りにされた
「この程度ではの。物足りなさしか残らぬな。さて、上はどうしておるじゃろうの」
二人の眼前にいた
「さて、行くとするかの。肝心の用事を済ませるためにも」
「ああ、急ごう。我らの使命をなすために」
ロージェグレダムとルブルコス、二人の姿が闇の中に消えていく。二人の気配は一切感じられなかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
高度二千メルク地点に立つのは、三剣匠が一人、ヴォルトゥーノ流現継承者ヨセミナだ。
永久凍土に覆われた谷底、切り立った断崖絶壁の岩石だらけの大地、いずれも足場の悪さだけは
ヨセミナの
「多少なりとも動きが
アーケゲドーラ大渓谷を訪れるのは、これが初めとなる。己が戦う場所が高度二千メルク地点とは限らない。最終判断は、大師父たるレスティーに委ねている。ヨセミナにとって、レスティーの命は何にも勝る。
だからこそ、決戦前日の夜にわざわざ足を運んでいるのだ。彼女に託された使命を果たすそのためだけに。
「上に来てよかったわ。面白いものが見られそうだ」
戦場の環境を知っておくのは実に重要なことだ。特に自然を味方とするヨセミナには、何の変哲もない岩石だらけのこの地形が、動き方次第で利点にもなれば欠点にもなる。そして、自然の力以外、そこに異物が交じれば手に取るように分かるというものだ。
「面白い。岩石に
ヨセミナに指摘されたことで、擬態の必要性は失われた。
谷底でロージェグレダム、ルブルコスと戦った
明らかに違うのは、
「いかほど、食った」
ヨセミナの問いにも、不敵な笑みをもって答えるだけだ。
「まあよい。答えずとも、およそ知れるというものだ。何よりも、お前は決して
ヨセミナの言葉を強がりとでも思ったか。
「ほうほう、これはまた随分と自信がおありのようだ。お嬢さんは、真の恐怖を知るべきですよ。私を滅ぼすなど、身の程を知りなさい」
見かけは人型でも、声は明らかにそうではない。ざらついた、まるで声帯が石や砂ですり潰されたような音として伝わってくる。不快感がいや増すばかりだ。
「面白い。
ヨセミナは両腕を組んだまま鞘に納まった剣を抜こうともしない。必要がないからだ。
「お嬢さんのような剣士は好物ですよ。しかも、実に濃密な養分をお持ちのようだ。久方ぶりに楽しませてもらいましょうか」
「お前ごとき、私が相手をするまでもない」
頭上から一直線、両手に握り締めた
金属同士がぶつかり、火花を散らす。鋭く
「この程度ですか。それに、貴男は食ったところで、実に
ここはさすがに
「ワイゼンベルグ、任せて大丈夫なのだろうな」
月明かりが男を照らし出す。茶褐色の長髪を揺らす男はドワーフ属だ。同色の髭が顔のほぼ下半分を覆い尽くしている。無造作に束ねただけの髪と異なり、
「無論ですとも、我が女神ヨセミナ様。このワイゼンベルグ、ヨセミナ様の直弟子として、ヴォルトゥーノ流序列筆頭として、恥じぬ力をお見せいたすことを約束いたしましょう」
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