第164話:ロージェグレダムとルブルコス
時は、
最終決戦を翌日に控えたアーケゲドーラ大渓谷の上空をゆっくりと雲が流れていく。岩肌を
完全に
高度二千メルク地点、足場の悪い断崖に立つのは一人の女だ。高度ゼロメルク地点、大峡谷谷底の永久凍土に立つのは二人の男だ。
「視察に来たはよいが、全く
ヨセミナとて戦えないわけではない。谷底は狭くはないものの、場所によっては両側の
その点、動かずとも敵を一刀両断にする剛剣の使い手たるロージェグレダム、
「可能性は他にもあるだろう。こいつに気づける者がいるとしたらな」
ルブルコスが左腕と一体化した
他の場所は
「誰が
聞くまでもないだろう、といった表情で明快に答える。
「儂に分かるはずもなかろう。お主でも読めぬか。こちら側から開けるのは無理そうじゃな」
まるでロージェグレダムの言葉が聞こえていたのか。突如として、岩盤の内側から強烈な冷気が吹き寄せてくる。
「おっと、これは余計なことを口にしてしまったわ。いや、許せ。そのつもりは毛頭ないのじゃよ。しかし、そうなると厄介なことよの」
既に興味を失ったか、岩盤扉に背を向けているルブルコスが答える。
「もう一つの扉だ。それを見つけるしかあるまい。我らの
左腕に装着しているのは、
レスティーによる魔術加工ならびに魔術付与による効果だ。それによって、
ロージェグレダムが持つ
およそ人が扱う剣とは言い
今、二人に向かって忍び寄る
「
差し向けたわけではないだろう。ルブルコスはあえて口にしなかった。間違いなく、強烈な魔力を感知して引き寄せられてきたにすぎない。
その
「面倒ならば、私一人で片づけるが。よいのか」
共闘するまでもない。どちらか一人で十分すぎる。
「相も変わらず、
永久凍土にめり込ませていた長大剣の
何の
その話はどこかで語られることもあるだろう。
「好きにしろ。私は私の獲物を狩るだけだ」
「可愛げのない奴じゃ。肩ならしにもならぬが、早々に滅するとしようかの」
言うなり、ロージェグレダムが
直後、爆発的な圧が真横に走り、数メルク先に迫っていた
「さらに軽くなったのう。さすがは大師父様じゃ。では、参ろうかの」
感心しきりのロージェグレダムの姿が視界から消える。その齢からは想像もつかないほどの脚力をもって、せり出す巨岩に向けて一直線に
鋭く
身体は大地とほぼ並行に傾いている。左手に構えた
「
ロージェグレダムが永久凍土の地に音もなく降り立つ。両腕を組んだまま、動こうともしないルブルコスとの距離、およそ二十メルク、
頭部を失った
そのような状態だ。核も無事であるはずがない。漆黒に染まった
左手で軽々と
「面白い性質を持つようじゃな。それでも、儂の背後は取れんよ」
明らかに戦いに慣れている。姿を闇に溶け込ませている。同化していると言っても過言ではないだろう。
数は二体だ。
「いささかも老いてはおらぬな。さすがだと言っておこう」
いつの間に持ち替えたのか。左手にあった
見れば、切断された四本の腕が永久凍土に落ちていた。
これこそが、ビスディニア流現継承者ロージェグレダムを
三剣匠は、それぞれが月の力を持つ。
「両腕を斬り落とされ、なおも戦意を失わぬか。ああ、済まぬ。お前たちに戦意などというものはなかったな。あるのは目の前の力を食らい、養分として吸収し尽くすことのみか。
粘性液体に戻った首が、永久凍土に触れるや
二つの核が音を立てて凍土に落ちた。
「ルブルコスよ、儂の獲物は歯ごたえもなく終わってしもうたわ。残り半分は、お主に任せるとしようかの」
少々、寂しげに言葉を発するロージェグレダムにルブルコスが尋ねる。
「ロージェグレダム、何回だ」
確認のためだけだ。ロージェグレダムは
「当ててみよ。儂が何回斬ったか、お主なら見えていたはずじゃ」
「二体まとめて四十九回だ」
ルブルコスは自信をもって答えた。ロージェグレダムからの解はない。ただ、
「食えない爺さんだな。次は私の番だな。手ならしといこうか」
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