第154話:共闘の開始
扉の前で魔力制御に集中していたシルヴィーヌは無論のこと、背後に立つセレネイアには
「全体像をしっかり把握しなさい。こうなることは自明の理でしょう」
恐る恐る瞳を開いた二人の眼前に、
「カランダイオ」
セレネイアとシルヴィーヌの声が重なる。
「それとも、自殺願望でもあるのですか」
手厳しい言葉を投げつけられ、二人は
「全く、仕方のない娘たちですね。それよりも早く室内に。問題はありません。急ぎなさい」
カランダイオの言葉を受けて、飛び込んでいったのはセレネイアだ。姉として、シルヴィーヌを先に行かせるわけにいかない。
右手の
予想をはるかに上回っていた。部屋中が壊滅状態、窓や扉はそのことごとくが吹き飛び、空と
「マリエッタお姉様は」
遅れて入ってきたシルヴィーヌが、
あらゆるものが吹き飛び、
(この魔力は。なるほど)
「セレネイア殿、その剣を」
全てを聞かずとも、セレネイアはカランダイオの意図を即座に理解した。
「カランダイオ、お願いいたします」
(さすが、我が主より
カランダイオは感じ取っている。相性が悪い。
(真逆の性質を持つ
剣身を眺めつつ、思案に
「カランダイオ、どうかしたのですか」
思った以上に思考が長かったようだ。顔を上げたカランダイオが静かに答える。
「何でもありません。この
セレネイアが真剣な面持ちで見つめてくる。強い目をしている。そこに覚悟が見て取れる。
最後まで説明する必要はなかった。一撃で終わらせる。失敗は許されない。彼女には、しっかりと伝わっている。
「二人は、すぐに屋上に向かいなさい。狙いどころを見極めるのですよ。私は、ここから出ます。まもなく客人も来るようですからね」
セレネイアに魔力を注いだ
「有り難う、カランダイオ。貴男も、無事でいてください」
「心配無用ですよ。私を誰だと思っているのです」
「それでも、貴男が心配なのです」
セレネイアとの距離感は、近すぎても遠すぎてもいけない。カランダイオの終始変わらない考えだ。
ここ最近、近すぎるような気がしないでもない。それも、彼女の方から領域内に入ってきている。そのためか、時折居心地の悪さを感じることもある。ただ嫌な気持ちを抱いたことは一度もない。
恐らくはセレネイアが相手だからだろう。
「それでも、ですか。まあ、貴女の気遣いには礼を述べておきます」
カランダイオの言葉に、セレネイアは微笑みを浮かべて
「あらあら、セレネイアお姉様とカランダイオ、いつの間にこのような関係になられていたのでしょう」
興味
それを知っているセレネイアでも、さすがにこれは看過できない。
「シルヴィーヌ、何を言っているのですか。私とカランダイオの間に、貴女が想像しているような関係などありませんよ」
多少、きつめに言ったことが裏目に出たか、シルヴィーヌが追い打ちをかけてくる。
「あらあら、セレネイアお姉様。それだけ強く否定なされるということは」
「こら、シルヴィーヌ」
セレネイアの
「シルヴィーヌ殿、これを飲みなさい」
カランダイオが手渡したのは、淡青色の液体、魔力回復薬を詰めた小瓶だ。
「貴女がセレネイア殿の目となるのです。
受け取ったシルヴィーヌは言われるがまま、即座に小瓶の中の液体を飲み干した。
「さあ、行きなさい。マリエッタ殿を無事に取り戻せるかは、貴女たちにかかっています」
二人が無言で頷き、足早に部屋から出て行く。見届けたカランダイオは、背を向けると、窓のあった場所まで歩を進めた。
「では、こちらも始めるとしましょうか」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
二頭のアコスフィングァが飛翔している。背には女と男が騎乗している。カランダイオの知らない顔だった。
マリエッタを包み込んだ
「助力いたしますよ」
上空の二人に向けて、言葉を発する。
「ルーヴ・アレセ・エクティーレ
ラド・リヴ・ペデルオ・ヴーリーゴ
空に
カランダイオは、詠唱の成就とともに無造作に身体を宙に投げた。
「
魔術が発動、落下していくカランダイオの身体が宙で制止する。すかさず、妄念塊が攻撃対象が増えたとばかりに、カランダイオめがけて襲いかかってくる。まさしく波状攻撃だ。
足場のない宙に立つカランダイオは、
「あれは飛翔魔術、かなり高位の魔術師しか使えないはずよ。何者なの」
フィリエルスの驚きの声が口から
「ゼンディニア王国の貴女たちが、
策を授けるカランダイオに対し、フィリエルスもフォンセカーロも全く異議を申し立てなかった。高位の魔術師なのだ。その彼が言うことならば、素直に聞いておくべきだ。空の優位性を活かした戦術ならば、なおさらだろう。
「承知したわ。私はゼンディニア王国十二将序列二位にして空騎兵団団長のフィリエルス、こっちは同じく序列八位にして空騎兵団副団長のフォンセカーロよ。貴男の名前を
カランダイオがぶっきらぼうに答える。
「私はカランダイオ、しがない魔術師の一人です。フィリエルス殿、フォンセカーロ殿、すぐに始めますよ」
カランダイオは内心、余計な
さらには、ビュルクヴィストがいないことも幸いだった。魔術転移門が開いた際の魔力は、間違いなくビュルクヴィストのものだ。その彼がここにいないということは、イオニアのもとに向かったのだろう。
彼がいたら、確かに大きな力になる。一方で、反りの合わないカランダイオとはまさに水と油だ。かえって、いない方が
ラディック王国のカランダイオ、ゼンディニア王国のフィリエルスとフォンセカーロ、共闘がまさに始まった。
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