第148話:玉座に開く魔術転移門
フィリエルスの
数にして三本だ。
「団長、申し訳ございません」
グリューディンが叫ぶ。彼の騎乗するラグリューヴの足元からだった。
どのようにして
「謝罪は無用。ハベルディオ、ウドロヴ、グリューディン、まずはラグリューヴの安全確保、可能なら即座に飛び立ちなさい。フォンセカーロはそのまま待機よ」
空騎兵団団長として、フィリエルスが矢継ぎ早に指示を出していく。
「陛下、この失態は後ほどお
「承知した。とはいえ、私が守る必要もないのだがな」
イプセミッシュがザガルドアを指差す。いつの間に抜剣したのか、既に敵襲に備えた態勢を整えている。
「さすがですわね。ここはお任せしますわ」
フィリエルスは
すれ違いざま、フィリエルスは身体を反転、勢いを殺すことなく素早くアコスフィングァの背に飛び乗る。
その様子を視認したフォンセカーロが即座に攻撃に移る。まさしく
「我がもとに集いて
突き立った長槍と三本の妄念塊を結ぶかのように、
霜道の完成と同時、妄念塊を取り囲むようにして床面が
「ハベルディオ、ウドロヴ、グリューディン、やりなさい」
ラグリューヴ三体がいっせいに急降下、
「フォンセカーロ、上空へ」
フォンセカーロにも、アコスフィングァを
三本ともが完全凍結には至っていない。フォンセカーロの
フィリエルスは振り返り、ザガルドアとイプセミッシュに視線を転じた。
「任せろ。俺が一本、仕留める」
「陛下に負けるわけにもいかぬな。ならば、私も一本引き受けよう」
フィリエルスは苦笑、正直に言うと
フィリエルスは、あくまで退避を呼びかける目的で視線を向けたのだった。それがどうだろう。ザガルドアもイプセミッシュも、フィリエルスの視線の意味を助力を
(ちょっと、何をしているのかしら。筆頭殿はともかく、陛下まで。もう、これだから戦闘馬鹿の男たちは。そんなことを言っている場合ではないわね。残る一本、私たち空騎兵団では火力不足が
フィリエルスが再度、
「団長、よろしいのでしょうか。陛下もイプセミッシュ様もやる気満々のご様子、お任せしてしまっても」
フォンセカーロの問いはもっともだ。フィリエルスは渋々といった表情を浮かべ、答える。
「あの状態になったら、もはや止まらないわよ。それよりも、残る一本をどう片づけるか。それが問題よ」
≪その心配には及びません。失態は私も同じです。責任を取って、ここは私に任せていただきましょう≫
空中に
「何者」
フィリエルスの
「おいおい、ここはいったいどこなんだ。我がゼンディニア王国、玉座の間だぞ。それをいとも簡単に、しかも無断で魔術転移門を開きやがる」
ザガルドアの
「まあ、そう言うな。これで残る一本、
二人のかけ合いはいつものごとくだ。若き頃より全く変わっていない。
「あのな。いずれ、お前の王国となるんだぞ。あいつらには、一度しっかり釘を刺しておく必要があるんじゃないのか」
走りつつ、二人は会話を楽しむだけの余裕がある。
「俺は、右に行く」
「私は、左へ」
既に剣を右手に握り締めているザガルドアが、大きく右へ飛んだ。対して、イプセミッシュは
二人の剣術は、その性格と同じく、実に対照的だった。
開いた魔術転移門から、一人の若き女が姿を見せる。
「では、私は真ん中の一本ということですね。
ザガルドアの剣術は完全我流、どの流派の剣でもない。幼少期からこの
剣を起点に、全身が自然体だ。半凍結で動きが鈍くなったものの、強力無比な妄念塊の攻撃を紙一重で
周囲からは、ザガルドアは苦労しながら瀬戸際で避けているかのように見える。実際はそうではない。確実に余裕をもって、最小限の間隔で避けきっているのだ。まさしく絶対の
「あれはヴォルトゥーノ流剣術ですか。よもや、ゼンディニア王国の国王がその使い手だとは知りませんでした」
女は一人、悠然と立ったまま微動だにしない。前を行くザガルドアとイプセミッシュの動きをその目で追っているだけだ。
「かたやイプセミッシュ殿はさすがにロージェグレダム殿の元直弟子、ビスディニアの剣術が板についています」
二人がともに攻撃に移った。
ザガルドアは流れるような動きで迫り来る妄念塊の攻撃を避けざま、立て続けに剣を振るう。その
イプセミッシュも負けていない。こちらは豪快そのものだ。妄念塊の攻撃を避けもしない。限界まで引きつけると、そこで初めて大きく右脚を踏み込んだ。その力強さに床面が大きく揺さぶられる。
背に吊るした
「お二人ともお見事です。私も仕上げといきましょう」
両腕を静かに前方へと突き出す。両の手のひらは妄念塊に向けられている。
「ラクセン・エレテー・メレーディア
フルヴェ・ルクード・デオリエデ
アーガ・ラニエイ・フィヴヌ・ラーゲ
際限なく活性化せよ
我が声に応えて敵たる存在を焼き尽くせ
全てを灰と
両の手のひらの前で、炎の花が一輪咲いた。両手でその花を優しく包み込み、天に
「
手のひらが開かれる。次の瞬間、一輪の炎の花が妄念塊の先端で花びらを広げた。八枚の炎を
「
女の声が
大気が揺れ、震えている。天井知らずで勢いを増していく炎が、ザガルドアとイプセミッシュに刻まれた左右の二本をも飲み込んでいった。
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