第132話:クヌエリューゾの正体
「では、お答えいただきましょう。貴男は、いったい誰なのです」
この問いには、クヌエリューゾも
「異なことを
不敵な笑みを
ビュルクヴィストの表情が、
「それは大変失礼いたしました。お
クヌエリューゾの両眼が大きく開かれる。一筋の光が走る。まるで雷が落ちたかのようだ。直後に響いた甲高い
「これは笑いが止まりませんね。私としたことが、最後の最後で
クヌエリューゾの身体から魔力が
「よく分かりましたね、ビュルクヴィスト殿。こうしてお会いするのは、かれこれ二百五十年ぶりでしょうか。貴男は、あの当時とあまり変わっていませんね」
クヌエリューゾを
「ここでクヌエリューゾ殿を見た時から、おかしいと思っていましたよ。巧妙に隠していましたが、魔力質が重層になっていましたからね」
その一つが、過去にビュルクヴィストが感じ取っている魔力と同質だったのだ。さらには、
「逆に言えば、私でなければ見抜けなかった、ということです。その意味では、貴男が言ったとおり、全くの予想外でしたね」
(これも、お見通しだった、ということでしょうね。全く恐れ入りますよ。さて、これからどう行動するか、ですね。)
黒き
さらには、今しがたのビュルクヴィストとクヌエリューゾとの間で
クヌエリューゾの背後を取ってはいたものの、ヴェレージャとビュルクヴィストが入れ替わった状況を見極め、すぐさま影を伝ってヴェレージャの隣に移動していたのだ。彼もまた二人の会話についていけない。
ディリニッツはジリニエイユと同郷ながら、相当の年齢の開きがある
通常、親兄弟など血の
「
ディリニッツは
何しろ、操影術はキィリイェーロより伝授された秘術であり、キィリイェーロは実兄ジリニエイユより伝授されているからだ。
「ビュルクヴィスト殿が言ったとおり、クヌエリューゾがジリニエイユならば、俺の操影術は通用しない」
「本当にジリニエイユという男なの。姿形は、どこからどう見てもクヌエリューゾだわ」
ヴェレージャの疑問はもっともだ。姿形はもちろん、仕草や口調などの特徴もヴェレージャの知るクヌエリューゾであり、
(私は、魔力質が重層になっていることに気づけなかった。頭からクヌエリューゾだと信じて、対抗する
ディリニッツが、ヴェレージャの肩にそっと手を置いた。
「己の力を過信はしていないだろう。上には上がある。レスティー様は、言うに及ばず、ビュルクヴィスト殿もまたその一人だ。彼が、クヌエリューゾではなく、ジリニエイユと見定めた。道理で、
クヌエリューゾを倒すべき切り札は、
「俺たちが、ここでできることは、もう何もない。悔しいな。ビュルクヴィスト殿に
「ビュルクヴィスト殿、貴男に見破られた以上、隠す必要もありませんね。ええ、そうです。姿形こそクヌエリューゾですが、彼は私の完全なる支配下です」
ビュルクヴィストに疑問はない。むしろ当然との思いが強い。
「初めて会った、あの時と同じですね。貴方の実体は遠く離れたところに隠れたままだ。違うのは、自身の分身体ではなく、他人の身体を支配しているということです。ところで、その後、左腕の具合はいかがですかな」
クヌエリューゾを通して、ジリニエイユの精神に少なからず衝撃を与えただろう。
「理知的ながら、人の嫌がるところを的確に突いてきますね。私も聞きたいことがあります。私の左腕を焼いたルシィーエット嬢はお元気ですかな。貴男の姿を見るに、彼女もまた当時の姿のままでしょうかね」
ビュルクヴィストは言葉を発せず、
それにジリニエイユのことだ。薄々は気づいているに違いない。
「そうですか。それは何よりです。いずれ、ルシィーエット嬢と相まみえる機会もあるでしょう。その時を楽しみにしておきましょう」
もはや時間も残されていない。フィヌソワロの里での戦いは、クヌエリューゾを操るジリニエイユの勝利で終わろうとしている。
ビュルクヴィストにも、エレニディールを閉じ込めている黒き檻を破壊するなど不可能だ。ジリニエイユの目的が目的なだけに、エレニディールの命を奪うような真似はしないだろう。
何のために、ここまで出向いてきたのか。敵の
「時間です。ここで貴男とやり合うつもりもありません。弟子思いのビュルクヴィスト殿、エレニディールはいただいていきますよ」
再び
(あの方のことです。必ず来ます。あの一撃が。全てを賭けるのはその時です。それまでは)
唯一、失われていない里の中心部に立つ魔力柱が、クヌエリューゾの右手に誘導されていく。
「二人とも、離れてください」
ヴェレージャとディリニッツが
誰もが、その光景を見つめることしかできなかった。
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