第128話:フィヌソワロを覆う魔力柱
既に勝利を確信しているのか、クヌエリューゾは動きを見せない。右手に持った
エレニディールの魔術が
「
大気に含まれる水が
エレニディールの意思に基づき、細氷は幾層もの渦状と化し、猛烈な勢いをもって吹き荒れる。クヌエリューゾは無防備のまま、
美しい氷の舞いは、すなわち滅びへの導き、細氷が触れたところから凍結が始まり、全身に及んだ時、
苦痛は一切ない。体温が瞬時に奪われ、心臓、脳、その他の臓器の一切が機能を失う。
クヌエリューゾの体表面が凍りつくかのように思われた。エレニディールは異変を感じ取っていた。
いつまで
(これは。クヌエリューゾにここまでの魔力はないはずです。考えられるとすれば、
氷舞輪の勢いが目に見えて
熱による
クヌエリューゾは何ら行動を起こしていない。氷舞輪の中に閉じ込められたまま、ただ
「エレニディール、さすがですよ。私の仕かけが完成していなければ、凍結させられていましたね。実に危うかったです」
危うかったと口にしたものの、表情は余裕の色を濃くした状態だ。上半身の氷舞輪は全て消え失せ、残る下半身も徐々に氷が薄れていっている。
エレニディールの目が、その足元、そして両手に持つものに注がれる。
「なるほど、貴男の仕かけの一つは重力操作でしたか。大地を注視していましたが、フィヌソワロの里全域を力場にするとは、恐ろしい力ですね。これも
クヌエリューゾが語ったとおり、東西南北に配置していた取り巻き四人衆は捨て駒だ。彼らを
そのうちの一体は、同化する前にヴェレージャたちに倒されたものの、むしろ好都合とはクヌエリューゾの言葉どおりだ。
死は、単なる呼び水にすぎない。滅びゆく
「目のつけどころはよかったですよ。
ヴェレージャの行使した
核はどうか。完全消滅には至っていない。
「あの四体は大規模な力場を構成する
クヌエリューゾが右手をゆっくりと持ち上げる。エレニディールの後方を指差す。
「最後の仕上げにかかります。しかとご覧なさい、エレニディール」
姿を見せたのはロズフィリエンだった。
クヌエリューゾに向かって、ゆっくりと歩を進めていく。一歩進む
「ロズフィリエン、止まりなさい」
エレニディールの制止する声は全く耳に入っていない。吸い寄せられるかのように、クヌエリューゾめがけて一直線だ。
クヌエリューゾから離れること三歩手前、ロズフィリエンはようやくにして足を止めた。
「ロズフィリエン、よく来てくれました。義弟である貴男を
エレニディールが注視していたもう一つ、クヌエリューゾが両手で広げ持つ書物から負の魔力が
「クヌエリューゾ、やめなさい。それをここで読み上げるなど狂気の
押し
書物は縦三十セルク、横二十セルク、幅五セルクにも及ぶ。クヌエリューゾは書物に目を走らせ、唇を震わせた。
「
見せかけの善なる知をもって背信者は
ここに去りゆく大地とともに砂と灰と塵に
哀れな生者に怒りの裁きをもちて等しく滅びを授けよう」
一節を朗々と読み上げる。
その瞬間、全ての時が止まったかのように思えた。風は
二重に音が響き渡る。
一つは書物を閉じる際に発せられた音、もう一つはロズフィリエンの身体が
「ロズフィリエン」
大量の血を噴き上げながら、ロズフィリエンが
操られたうえ、喉から手が出るほどに
ロズフィリエンの人生とは、いったい何だったのか。エレニディールは今ほど、己の無力さを痛感したことはなかった。
「全ての準備が完璧に整いました。ロズフィリエンの血と肉と
フィヌソワロの里が、大地が揺れた。激しさを増していく揺れを前に、立っているのもままならない。
里の周囲、東西南北で贄となった
ロズフィリエンが頽れた位置、それも重要な要素だった。なぜなら、その位置こそがフィヌソワロの里の中心点なのだ。
円陣が完成すると、東西南北から漆黒の
中心点からもう一本の魔力柱がそびえ立つ。計五本となった魔力柱は、それぞれが意思をもったかのようにはるか上空で結びつき、フィヌソワロの天に巨大な
「エレニディール、覚悟はよろしいですね。ああ、どうかご安心を。命までは取りません。我が神より厳命されておりますのでね」
既に発動している魔術効果半減、精霊の眠り、強力な重力場に加え、最後の仕かけが発動、そして
絶望がエレニディールを襲う。最後まで
「諦めが肝心ですよ。外からの援軍は一切頼れません。この魔術陣が構築されている間、外部からの侵入は一切不可能なのですから。それほどまでに強固なのですよ。何しろ、
身体が異様に重い。いくら重力場の影響があるとはいえ、ここまで極端に動けなくなるものなのか。
エレニディールは
クヌエリューゾと
魔力を温存しつつの発動であるが
「おかしいですね。ここまで身体が重くなるとは。それに呼吸が乱れてきています。風を
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