第111話:異界の三頭龍
普段であれば心配する必要もない。レスティーの力は圧倒的で、
今は状況が違う。相対しているのは、レスティーでも勝てない存在、尋常ならざる
「フィア、そのような顔は似合わないわ。心配は無用よ。ご覧なさい」
「誰だと思っているの。私の可愛い弟よ。相当に厄介な、次元の
何をしてくれたのですか、と声を大にして叫びたい。それは
こうなった以上、
「あら、もう戻って来られたのね。さすがは私の弟だわ。私の想定を上回るなんて。姉として、これ以上の喜びはないわね」
フィアは安堵のため息を吐いた。亀裂の隙間から光が
これで終わりではない。砕けた
レスティーの背後を飾るは、揺らめく
「防から攻への切り替えの早さといい、私の術理をそのまま転用する機転といい、申し分ないわ。よいでしょう。私の可愛い弟に敬意を表し、
レスティーは驚きと戸惑いがない交じった表情を浮かべたものの、一瞬で消し去る。二人がこの状況を楽しんでいるのは明白だ。
"Kafhsapeag okvimsilmng."
レスティーの唇が
それさえも不要とするのが、この姉なのだ。既に結果は見えている。姉の前では、あらゆるものがひれ伏す。むしろ、召喚された真体への影響の方こそが心配だ。
それを承知で、レスティーは試しておきたかったのだ。己の力の限界を見極めるために。
純黒幕を通して異界の暴風が大量に流れ込んでくる。主物質界においては、ほぼ実現不可能な現象だ。それを可能とするのが、レスティーたちの立っている空間だった。
姉と兄、この二人の力をもってすれば、創造空間内に異界を再現するなど
かつて、パレデュカルはジリニエイユを倒すため、ただ一度だけ異界より巨大な
「姉上のお許しが出た。我が声に
純黒幕を切り裂いて、真体が顕現する。
一つの胴体に三つ頭を有する黒龍が、堂々たる威容を誇っている。不安定極まりない
(フィア、そこを動くな。万が一もないが、しばらくはその結界内で)
(私の愛しのレスティー、必ず、戻ってね)
「まずは、偉大なる創造主様へ、最大の敬意をこめて。我が真体をもっての全能顕現をここにお許しいただき、望外の喜びであります。心より感謝申し上げます」
三つの頭が等しく、深く下げられた。その頭が横に振られ、ちょうどフィアと相対する形になる。六つの瞳は、フィアではなく、そのすぐ背後に向けられていた。
「等しく、感謝を」
いつの間にやって来ていたのか、ラ=ファンデアを手にした兄が立っている。
「私に気を
気軽に応じて、フィアを守るように彼女の一歩前に歩み出る。レスティーにも、その動作は当然見えている。改めて、兄の気遣いに感謝する。
「レスティー、我の召喚主にして、異界の友よ。随分と久しいではないか。数百年ぶりになるか。我を召喚したということは、来たる戦いにおいて、今度こそ我の力を欲するということか」
レスティーは首を縦に振り、答える。
「百年前の二の舞を演じるわけにはいかぬ。この手で必ず
主物質界での召喚になる。レスティーの力をもってしても、
百年前のあの時、レスティーは
結果的に、それは成し得なかった。
「よかろう。そなたには借りもある。何より、友の頼みを断る手もないであろう。だが、承知か。今、我が目に映るこの場所こそが戦いの場所なのであろう。我が全能を発揮すれば、跡形もなく消滅するぞ」
「姉上からお許しをいただいている。この程度までなら、何ら問題はない」
レスティーは、姉から投影された数百万年前のアーケゲドーラ大渓谷の様子を、
「なるほどな。これなら本気で暴れられるというものだ」
「そなたの真体を召喚したのは、レスティーのためでもあり、そなたの力の発散のためでもあります。
創造主を仮想敵と見なして攻撃するなど、あり得ないし、考えたくもない、というのが
「お待たせいたしました、姉上。では、全力をもって」
「待て、レスティー。創造主様に攻撃を仕かけるなど、あり得ぬであろうが。我には無理ぞ」
慌ててレスティーを止めようとする
「分かった、分かった。やればよいのだな。やれば。では、レスティー、念のためだ。戦術を聞いておこうか」
「戦術などない。真正面から全力をもって挑む。ただ、それだけだ」
「やれやれだ。やむを得まいか」
全開まで広げられた三つの
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