第043話:結晶体の正体
空に無数の花びらが優雅に舞っている。紅の花びらはその身に炎を纏い、闇を
「
パレデュカルは左右の掌底を巧みに動かし、
狙いはジリニエイユではない。先ほどから魔力制御を妨害し続けている魔術師だ。木々の中に
(鬱陶しい奴らめ。お前らごときの魔力干渉が、俺に通じるとでも思ったか)
無数の
パレデュカルはかなりの時間をかけて工夫を
掌底を下に向け、一気に振り下ろす。彼らの頭上に集った
「邪魔者は、早々に消え失せろ」
四人の魔術師たちも黙ってやられるほど油断はしていない。ただ、魔力干渉に集中するあまり、
魔力の使い道を干渉から防御へと移行する。対抗魔術は間に合わない。できるのは結界で防ぎ切ることだ。
「フィウェ・ングゥ・ルー・ベルダウ
暗き闇の支配者に願う
底なき
彼らが唱えた魔術は、
「
一枚の花びらが、男たちの髪に触れるのと、闇空が展開されるのと、いったいどちらが早かったか。
「どうやら結界が間に合ったようだな」
四人の魔力を感知しているジリニエイユが
確かに、防御結界は間に合った。上空から舞い降りてくる
「面白い。初めて見る防御結界だ。だがな、
四人の足元には、今や花びらが無数に降り積もっているのだ。
熱は全く感じなかった。当然だ。炎を一切
下に向けていたパレデュカルの掌底が裏返る。
刹那、花びらは重なり合って
四人の闇空は、直上からの攻撃を防ぐためのものだ。直下に展開し直す時間はもちろんなかった。
絶叫さえ上げる余裕を与えず、
「
感嘆とともに賞賛の言葉を送るジリニエイユに対し、パレデュカルは慎重に
最も厄介なのは、ジリニエイユが左手にしている結晶体だ。これを破壊することに意識を集中する。
「気になるようだな。既にその目で
ジリニエイユは不敵な笑みで、手にした結晶体を左右に振って見せる。
パレデュカルは応じなかった。言葉にするのが恐ろしかったこともある。何より、あれは人ごときが触れてよいものではない。
「そうとも。この結晶体は
言外の意味をくみ取る。
「私は全ての
「完全に狂ったか。お前は禁断の力に触れてしまったのだな。
ジリニエイユは一笑に
「
言われるまでもない。パレデュカルもその目を持つ一人だからだ。戦いの過程で、多くの同胞が命を奪われ、無残にも散っていったことも理解している。
奪われる前に奪え。それが
「私はふと思ったのだ。奴らを狩るのもよいが、手駒にできぬものかと。従順な
ジリニエイユが結晶体を指の間に挟み込み、真っ二つに割った。内部から黒い
「ダナドゥーファ、実演を
「何をするつもりだ、ジリニエイユ」
パレデュカルはいつでも
黒い
「ダナドゥーファよ。力とはこういうものを言うのだ。いかにお前が優れた魔術師であろうと、
「馬鹿な」
積もった灰が黒い靄に包まれ、次第に人に似た形を作り出していく。灰と靄が混じり合い、異臭が立ち込める。
「さあ、
靄が徐々に晴れていく。身体らしき部分は、粘度の高い不透明の液体で覆い尽くされていた。
脚は辛うじて二本ついている。どちらも引きずるように動かし、ゆっくりと近づいてくる。その
液体には腐食効果でもあるのか、土壌を構成する落ち葉や雑草から白煙が生じていた。
「
パレデュカルは両の掌底を素早く合わせた。
炎が勢いよく
炎に焼き尽くされた身体から粘性液体が分離、再び灰となって
「それぐらいはやってもらわぬとな。では次だ。これならどうだ」
ジリニエイユは結晶体から再び黒い靄を呼び出すと、灰になった
パレデュカルがいかに優れた魔術師であろうと、魔力量は
「悲しいな、ダナドゥーファ。魔力量を気にしているのであろう。いくら魔力量の高いエルフと言えども限界はある。お前は、いつまで持つだろうな」
何もかもお見通しといった態度が
パレデュカルは一息入れて呼吸を整えると、魔力量の調整にかかった。まずは、この八体を速やかに滅する。
掌底に力を入れ、魔力を両の親指を除く八本へと流し込んでいった。
「何度、立ち上がって来ようとも結果は同じだ。灰に
八体個々を対象にして、
一度に全体を対象にした方が魔力制御は楽だが魔力量の消費が大きい。制御よりも量を優先、個々撃破に切り替えたのだ。
「ふむ、それはどうかな」
炎に包まれた。粘性液体が蒸発を始めている。しかし、身体の崩壊が
「こんな短時間で
それでも、パレデュカルの最上級魔術をたった一度食らっただけで、耐性を会得するなどあり得ない。パレデュカルは再び目を開いた。
「これは。そうか。既に炎に対する耐性魔力を付与されていたのか」
魔力の流れを見れば一目瞭然だった。一つは
「ダナドゥーファよ、お前が火炎系魔術を使うのは分かっていたからな。対策をしておくのは当然であろう」
今やパレデュカルは絶体絶命に追い込まれつつあった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます