第037話:セレネイアの推察
ゼンディニア王国には、リンゼイア大陸最強とも
「十二将には優れた魔術師が数人います。その彼らでさえ
振り返れば、突然のカルネディオ城破壊に端を発し、
アレイオーズ、ウーリッヒ、クルシュヴィックの三名が立て続けに
「この一連の出来事が、全て一人の魔術師の仕業だと考えれば筋が一本通ったことになります。つまり、
ビュルクヴィストは口を差し挟むような無粋な真似はしない。まずは彼女の言葉を全て聞いてからだ。先を促す。
「裏で手を引いている者こそがイプセミッシュ陛下である、という構図が成立するのではないでしょうか。イプセミッシュ陛下はとりわけラディック王国を憎んでいます。それこそ滅ぼしたいぐらいにです」
セレネイア自身、最初は単なる憶測にすぎないと思っていた。自分の頭で整理しつつ、言葉にしているうちに、真実に近しいのではないか思い始めている。証拠は一切ない。
「正体不明の魔術師とイプセミッシュ陛下、二人が何らかの条件のもと、手を結んでいると考える方が自然ではないでしょうか」
イプセミッシュの思惑は分からない。得体の知らない魔術師と組むなど、危険性が高くなるのは明らかだ。それを承知のうえで手を組んだとなると、相応の利益が得られると踏んでのことだろう。
「カルネディオ城の破壊はこの魔術師の実力を図るため、また
理路整然としたセレネイアの説明を受け、居並ぶ一同は改めて彼女の聡明さに感じ入っていた。
「いつの間にそのような考察をしていたのだ」
イオニアの疑問はもっともだ。このような公の場で、たとえビュルクヴィストの要請だとしても、勝手に私見を披露したことは
もとより、
事前に一言相談してくれていればと国王の立場として、少々寂しい思いをしないわけではない。一方で、さすが我が娘と賞賛したい父としての心情もある。複雑な思いを抱えるイオニアなのだ。
セレネイアが答えようとしたところに、ビュルクヴィストがようやく反応を返してきた。
「素晴らしいです。賛辞を贈りますよ。セレネイア王女、貴女は間違いなくひとかどの人物になられますね。そう思われませんか、イオニア殿」
いきなり振られ、返答に困る。
内心では当然であろう、セレネイアは我が娘であるぞ、と大いに自慢したかったに違いない。さすがにその言葉は
「セレネイア王女、幾つか質問してもよろしいですかな。その前にステルヴィアが
ビュルクヴィストが何を考えているのか、セレネイアには全く分からない。ひとまずは承諾の言葉をもって応じた。
「カルネディオを破壊した魔術師は貴女の推察どおりです。この者は我ら魔術高等院ステルヴィアが追い続けている人物なのです。名をパレデュカルと言います」
ビュルクヴィストは、パレデュカルについて簡単に説明を加える。
「彼はシュリシェヒリというエルフの里の出身です。色々あった後、行方が
イオニアが今にも文句を言い出しそうに身を乗り出している。先んじて手で制したビュルクヴィストがさらに言葉を続ける。
「なぜ、分かったのか。疑問に思われていますね」
セレネイアの表情がそれを雄弁に物語っている。ビュルクヴィストは一呼吸置くと、改めて本題に入った。
「魔術高等院ステルヴィアには、強力な広範囲魔術探知機能が備わっているのです」
セレネイアはその様子を脳内に描いてみる。
「貴女が想像したとおりですよ。その探知能力はリンゼイア大陸全てを網羅できるほどです。そして、この魔術師の魔力は私が把握していました」
セレネイアだけではない。イオニアをはじめ、ほとんどの者が疑問に感じている。なぜ、ビュルクヴィストがこの魔術師の魔力を把握できているのかと。
「私もスフィーリアの賢者もこの魔術師とは少々訳ありでしてね。ずっと探していたのですよ。スフィーリアの賢者は最後まで信じたくなかったようです。それ
最後の言葉はイオニアに向けたものだ。会釈するがごとく軽く頭を下げると、すぐに体の向きをセレネイアに戻す。
パレデュカルはこれまで決して強力な魔術を行使してこなかった。意図的に避けていたのだ。行使すれば魔術高等院スフィーリアの探知機能に引っかかる。そうなるとビュルクヴィストたちに居場所が知られてしまう。
それを恐れていたパレデュカルがなりふり構わず、常人では出し切れないほどの
「我々が扱える魔術には限度というものがあります。もちろん、貴女もご存じのかの御仁だけは別ですよ。この私でさえ強固かつ堅牢な城を跡形もなく破壊し尽くすことなどできません」
主物質界最強の魔術師とも称されるビュルクヴィストでさえ不可能なのだ。スフィーリアの賢者から報告を受けた際には、何の冗談だと言いたくなったのも
話が脱線してきた。しかも、いつものごとく独演会になりつつある。ビュルクヴィストは静かに一同を見回す。
「せっかくの機会です。セレネイア王女は無論のこと、ここに集まりの皆さんも疑問や質問があれば、遠慮せずなさってください」
ビュルクヴィストは言葉を切ると、改めて居並ぶ面々を見渡した。その顔を見れば一目瞭然だ。ここまでの話の内容を皆が真剣に吟味している。
「ビュルクヴィスト殿、そのような情報をなぜ今頃になって我が王国に明かすのであろうか」
イオニアとしては当然の疑問、いやどちらかと言えば不満だ。
もっと早くに魔術高等院ステルヴィアが情報を共有してくれていたら、何か手の打ちようもあったのではないか。そう思わずにはいられない。
かと言って、強力な魔術や
「イオニア殿のご立腹ももっともでしょう。しかしながら、ステルヴィアにはステルヴィアの規律があります。情報共有には慎重を期する必要があります。おいそれと外に出すことはできないのですよ」
相手はあのビュルクヴィストだ。イオニアも国王である前に、一人の人であり、いつもながらの人を食ったような言動には不快感を覚える。カランダイオがもっとも嫌っているビュルクヴィストの性格でもある。
不穏な空気を察してか、宰相モルディーズが割って入る。
「ビュルクヴィスト様、私からもよろしいでしょうか」
「もちろんですとも」
「カルネディオを破壊したエルフについて、もう少し詳しく聞かせてもらえないでしょうか。先ほどのお話では、その者の行方をずっと追っていたとか。ビュルクヴィスト様やスフィーリアの賢者様とは、どのような関係なのでしょう」
是が非でも聞いておかなければならない事柄の一つだ。
モルディーズは、何よりも魔術高等院ステルヴィアの本格的な政治介入を危惧している。それでなくとも、ビュルクヴィストはあれこれと口出しをしてくる要注意人物だ。
ましてや、ラディック王国には過去に戦争犯罪を起こした負い目もある。それに起因して、スフィーリアの賢者による監視対象になっていることも
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