第025話:風を纏う不可視の剣
「ほうほう、ほうほう。やるではないか。これがラ=ファンデアの本当の力というわけか」
ばらばらになった
切断された部位から
(再生速度が。ラ=ファンデアは
「実に素晴らしい。ラ=ファンデア、是が非でも手に入れたくなった」
細い線状だった液体も次第に粘度を高めながら、液量を増やしつつある。結合が始まり、一つの身体へと戻っていく。
「
再び姿を見せたフィアが、恐ろしいことを平然と言ってのける。レスティーはフィアの毒舌に苦笑しつつ、すぐさま応じる。
「もとより、そのつもりだ」
レスティーはラ=ファンデアを右手一本で、やや左斜め
「どうして。
セレネイアと同時、スフィーリアの賢者も独り言のように
「これからがレスティーとラ=ファンデアの
真のラ=ファンデアに、
風を
レスティーの魔力に呼応して、フィアが優雅に舞い、剣が踊る。風は調べを呼び、その威力を
セレネイアに見えるはずもないラ=ファンデアの刃が、レスティーの合図を待っている。
刃はまさに
レスティーが
スフィーリアの賢者は、変わらず冷静さを失っていない。セレネイアは、その感情を目まぐるしく変化させている。彼女のレスティーを、ラ=ファンデアを見つめる瞳は、先ほどまでの意気消沈から高揚の色に変わっていた。
「面白い娘だ。ラ=ファンデアの刃を見たいのか」
明瞭な声がセレネイアの耳に入ってくる。どうしてと疑問に思う前に、口をついて出ていた。
「は、はい、ぜひとも。見せて、いただけるのでしょうか」
突然、姿を現したフィアが実に嫌そうな表情で
レスティーはフィアを
≪フィア、あの娘の視覚でも
≪嫌よと言いたいけど、私の愛しいレスティーの頼みなら断ることなどできないわね。少しぐらいなら具現化してあげる≫
フィアはこのような姿ながら、喜怒哀楽がはっきりしている。その心は人そのものと言っても過言ではない。
≪いい子だ、フィア≫
≪もう、子供扱いしないで。まさか、私の愛しいレスティー、あの小娘に興味を持ったとかないでしょうね≫
フィアがやや
互いに今の状況を忘れているわけではない。それだけ余裕だという現れでもある。
≪あるわけがない。私が興味があるのは、なぜあの娘がティルフォネラを所持しているのか。その一点に尽きる≫
≪そうよね、私の愛しいレスティーがあんな小娘に。でも、確かにおかしいわ。なぜ、ティルフォネラを持っているのかしら。だって、あれは≫
言葉を打ち切るため、レスティーは魔力をいっそう強くラ=ファンデアに流し込む。
≪あん、もういきなり。何て心地よいのかしら≫
レスティーの魔力を
不可視から可視へ、風が無色から、淡く透き通るほどの
「何て綺麗なの」
「貴女がいてくれて幸運でした。実は、私もこの目で見るのは初めてなのですよ。それにしても美しいですね」
スフィーリアの賢者の言葉に
刃は
剣身らしき部分は、
レスティーの身体を包み込む風は、
「フィア、
既に再生を終えて立ち上がった
四肢を大きく広げ、そこから爆発的な
「今度こそ、存分に食らうがよい」
両腕両脚が再生している。即座に同様の攻撃が繰り返される。
放出、再生、放出、再生、放出、再生、果てがない。
「千切ると言った」
先ほどと同じく、風の刃で対抗してもよかった。ラ=ファンデアなら造作もない。巨大杭であろうと、変幻自在の風の刃の前では粉々に
レスティーはあえて一段上の力を見せつけることにした。
強さの異なる風層を微細なまでに重ね、空間そのものを裂く能力は、攻防一体の陣として非常に優れている。何しろ、断裂した空間に触れたが最後、あらゆるものが寸断されてしまうからだ。
「これだけやっても届かぬとは。化け物か、貴様」
「お前に言われたくはないな」
ラ=ファンデアが有するごく一面に過ぎない能力で、この結果なのだ。
「まさか、ここまでとは。正直、貴様をなめていた。素直に
地に降り立った
「この攻撃から逃れられた者は一人としていない。貴様も同じ末路を
「
灰白色の靄は明確な意思のもと、生命を持つ者のみに
ディランダイン砦内では、多くの者がレスティーたちの背後でこの戦いを見守っている。第一騎兵団は少数だ。ルドゥリダス側の国境警備兵は、ウーリッヒに斬られて倒れた者も含め、パラック隊長以下、十名以上が砦内に残っている。
まずは弱い者から狙われるのが世の常だ。靄が隊員たちをまたたく間に飲み込んでいった。
直後、断末魔にも似た叫び声が
鎧や衣服からは激しく白煙が噴き上がっている。露出した肌がみるみるうちに
顔や腕、足といった部位に穴が開き、骨までもが溶け出していく。他の隊員たちも同じ有様だった。さながら
「ああ、みんな」
セレネイアは眼前の
「いいぞ。もっと、もっと苦痛の叫びを上げろ。それが私の養分となるのだ。絶望の声を存分に聞かせるのだ」
実体のない
スフィーリアの賢者の結界で守られているセレネイアを絶望感が襲う。彼らを助けたい。自分にはその
スフィーリアの賢者には、彼女の気持ちが痛いほど伝わってきている。
今は同情の気持ちを寄せている場合ではない。結界の外に出て、
「まさか、気に入らなかったとは言うまいな。弱者をいたぶって何が悪いのだ。貴様も同じことをするであろう。弱者はただただ
「愚かなことを。わざわざ友の
スフィーリアの賢者もフィアも、ある意味、レスティー以上に
レスティーは、フィアに怒りの感情は失ったと答えた。実はそうではない。心の奥底、深い部分に封じているだけなのだ。
二人は、レスティーのその部分に触れにいった
「その口を今すぐ閉じなさい。さもなくば、最大級の冷酷な滅びを速やかに与えるわよ」
スフィーリアの賢者、フィアが言葉を
「
戦いの決着の刻が迫っていた。
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