第024話:虫蟲の脅威
次々と間断なく襲い来る矢は、三種の色に染まっている。紫、緑、赤だ。それらが不規則な間隔で飛来する。攻撃そのものは単調で、一直線に向かってくるだけだった。
「
レスティーが
「任せて」
レスティーにしなだれかかったままのフィアが視線を正面に向け、軽く息を吹きかける。烈風と化したフィアの
「さすがに、この程度の攻撃なら
「これで終わりではないぞ」
撃ち砕かれた蟲毒矢は、それで無害化されたわけではない。
蟲毒矢に射られた者は、その傷口から猛毒が体内を
射られなかったとしても、地面に落ちるなどした蟲毒矢は、たちどころに
かつて、南方の大陸で猛威を振るった暗殺術の一つだ。今では、その使い手たる蟲術師は絶滅したと伝えられている。
生き物なら何でも襲う虫蟲は、ある意味、蟲毒で命を落とす以上に
虫蟲は生き物の体内に
蟲毒兵器となったが最後、己の命が尽きるまで誰彼構わずに襲いかかり、猛毒をもって
ただ、唯一の救いであろう、脳幹に住みついた虫蟲の寿命は短い。せいぜい三日程度だ。その間にいったいどれぐらいの者が殺められるのか。皆目見当もつかない。
レスティーと
虫蟲の本能が刺激されたか、はたまた悲しい蟲毒の
「うっ」
セレネイアが、あまりのおぞましさにたまらず口元を押さえ、顔を
フィアが右手をもって虫蟲を一掃しようとした。その手をレスティーが握って制止する。
「私がやろう」
虫蟲を取り囲むようにして、大地に正円が描かれた。その正円に向かって急速に大気が流れ込んでいく。
「蟲術師の悲しみが、お前たちを通して伝わってくる。そのようにはなりたくなかったろう。もはや苦痛はない。眠るがよい」
正円の
大気より水を、水より氷を、頂点に達した冷気は
「あれは
「
「精緻、なのですか」
魔術を扱えないセレネイアには、スフィーリアの賢者の言う精緻の意味が分からなかった。乱暴な言い方をすれば、魔術なら何でも同じだろうといった感覚だ。
「ええ、とても精緻なのですよ」
スフィーリアの賢者がセレネイアに説明する。
冷気の制御は、魔術師だからと言って誰にでもできるものではない。
レスティーの
一瞬にして極低温で凍結された結果、一切の苦痛を味わうことなく眠りに落ちていった。そう、永久の眠りに。
「私の愛しのレスティー、怒っているの」
「どうだろうな。その感情は失ったと思っていたのだがな」
切なげに瞳が揺れる。フィアの髪をレスティーが優しく
再び、戦いが始まる。
「続きといこうか。このようになりたくなければ、お前の真の力を見せてみろ」
レスティーは胸元から
「今度は頼めるか、フィア」
「もちろんよ、私の愛しのレスティー」
フィアの左手がしなやかな曲線を描いた。
音もなく、五等分に切断された双三角錐の物体から黒い
「うるさいわね。
打って変わって、感情を廃したフィアの声音は冷酷にも聞こえる。
今度は右手が動く。
円を描くように風が走り、全ての黒い靄を包み囲むと、
「
レスティーはスフィーリアの賢者の胸元を指した。魔術学院ステルヴィアでレスティーに出会って以来、共に旅をしてきたため、分析する時間もなく、ずっと持ち歩いていたのだ。
「そなたが持っているものは無色透明だな」
「ええ、そのとおりです」
セレネイアは息を
「そうですか。これが
悲痛な思いで手にした核を見つめている。
「やはり貴様が。手駒を滅ぼしたことは
右腕が異様なまでに伸び、さらに鋭利に研ぎ澄まされていく。剣そのものだ。
剣と化した腕の一部が分離、
「フィア」
「分かったわ、私の愛しのレスティー。こんな
空間を埋め尽くす黒刃のすぐ背後に
クルシュヴィックの剣術を
レスティーは、刃のないラ=ファンデアの
剣が
「考えてはいるが、それでも届かない」
襲い来るはずの黒刃が、全て撃ち落とされていた。
レスティーも同等、いやそれ以上の威力をもって
フィアの力を余すことなく自由自在に使いこなせる。レスティーだからこそ可能となる魔剣技だ。
腕そのものが長大な剣となって、レスティーの頭上から一直線に落ちてくる。
「もらった」
「無駄だ」
ラ=ファンデアを
風は荒れ狂う嵐となって、
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