第023話:魔剣ラ=ファンデア
「右腕を引きちぎって、その再生も終えたか。ここから、お前の相手は私がしよう」
(
落胆するレスティーだった。顔には一切出さない。
「笑止、スフィーリアの賢者ならいざしらず、ただの人族ごときが私の相手をするだと。冗談は
「それはお前が
正体を指摘されたクルシュヴィックの目つきが変わった。
(ふむ、私の正体を知ってのこの態度、結界を破ったのもこの男の
「よもや、私を
「これから滅びゆくお前に、答える必要はないだろう」
「ほうほう、これは、これは。私を滅ぼすとは大きく出たものだ。私はセレネイア以外に興味はない。あの女を差し出し、大人しく
レスティーが
「滅ぼす前に聞いておこう。あの娘をどうするつもりだった」
「無論、味わう。とことんな。
もはや聞く必要はなかった。
レスティーは空いている左手を軽く振った。ただそれだけだった。
「今、何が」
セレネイアが絶句している。
あらかじめ答えるであろう内容は分かっていた。レスティーが意図的に彼女の周囲の空間から音を取り除いていたのだ。
スフィーリアの賢者には、全て聞こえている。彼は逆に
「お前に選択権を与えよう。
誰に向かって言っているのだろうと思うセレネイアだった。次の光景を目の当たりにして、自分の目を疑うしかなかった。
「いきなりの
「なぜ、どうして」
セレネイアの疑問も当然だろう。首を落とされて、なお生きているなど、人ならあり
「私の言葉をそのまま返すとは面白い。この男の身体はいたく気に入っている。解放するつもりなどない」
「そして、貴様の末路こそ一つだ」
左腕を太く伸ばし、無造作に振り上げた
余波は当然のごとく、スフィーリアの賢者たちにも及んだ。展開済みの結界がそれらを
「
「つまらぬ。まだ先ほどの
土砂煙の向こうから聞こえる声に、
そして、確かに言ったのだ。
(手駒が倒されたというのか。この男に。それこそあり得ぬわ)
風が意思を持ったかのように、複雑な動きを見せている。土砂煙はレスティーを
レスティーはラ=ファンデアの切っ先を大地に突き刺し、
風はラ=ファンデアを中心に渦巻状となって、その流れを変えつつある。
「今度は何だ。ラ=ファンデアから風が。そのような能力があるとは聞いたこともないぞ」
スフィーリアの賢者が、セレネイアの様子を横目で
レスティーは、手のひらから柄を通して
「何をするつもりだ」
「いよいよですね」
反応が好対照だ。
柄を握ったレスティーがラ=ファンデアを引き抜き、頭上に
「
足元から急速に風が逆巻き、次の瞬間、
「ようやく会えた。私の愛しのレスティー」
レスティーの背後からしなだれるように腕が二本伸びている。
あまりの突然すぎる光景に、セレネイアは我を忘れて見入ってしまっている。
「賢者様、あれは、いったい」
恐る恐るセレネイアが尋ねる。
ラ=ファンデアにいったい何が起こったのか。風が吹き荒れ、刃が消えたのも見えた。見えたが、その直後に生じた出来事は理解できるものではなかった。
「あれこそが、
セレネイアに返す言葉はなかった。まだ理解が追いついていないのだ。
しなだれた手に自身のそれを重ね、レスティーはあろうことか、
「久しぶりだな、フィア」
レスティーはフィアの手を下から優しく握り直し、手の甲に口づけを送る。その仕草はまるで恋人同士の
決定的に違うのは、フィアの全身が透き通るほどに淡く美しい
衣服らしきものを
ただただ、美しい女の容姿だった。人族でないのも明らかだ。
「ようやく解放してくれた。ねえ、私がどれほど待ったと思っているの。どれだけ私を焦らしたら気が済むのかしら」
甘く澄み通った声だった。セレネイアでさえ、うっとりさせられるほどだ。
「私の目がおかしくなったのでしょうか。賢者様、あれがラ=ファンデアなのですか」
「ちょっと、そこの小娘、あれ、とは何」
ええ、あなたですよ、とすかさず目で応えるスフィーリアの賢者だった。
「え、あ、はい、申し訳ございません」
丁寧に頭を下げて
「貴女のような小娘がどうして私を所持できるのよ。それ以前にも、あんな男や、ろくでもない人族ばかり」
あんな男とは、もちろん
「よく聞きなさい。身も、心も、私の全ては私の愛しのレスティーのものなのよ。しかも、この私を地面に落とすなんてあり得ないわ。断固抗議するわ」
「フィア、いい加減にしろ。その話は後だ。まずは」
さすがに
「私に背を向けたままでの茶番劇とはな。随分となめられたものだ。もはや貴様らが何かはどうでもよい。ひとまとめに餌にしてくれるわ」
クルシュヴィックの姿を維持したままの
「まずは小手調べといこうか」
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