第020話:イプセミッシュの根幹
玉座の間を静寂と共に寒気が支配している。
刻は
イプセミッシュは六将たちの退出後もここに一人残り、長考を続けていた。
まもなく、報告を受ける時間になる。退出を命じていたディリニッツも早々にやってくるだろう。
イプセミッシュは
考えても仕方のないことだ。窓際までの
玉座の間には魔術光が灯され、ほどよい明るさを保っている。外は完全な暗闇だ。本来なら、頭上にあるはずの三連月も雲の中に隠れてしまって姿が見えない。
イプセミッシュは窓越しに遠く外を眺めながら、幼き頃を思い出していた。
現ゼンディニア国王イプセミッシュ・フォル・テルンヒェン、その名が示すとおり今でこそ貴族だが、
物心ついた頃には、既に孤児としてしか生きる道がなかった。両親の顔はもちろん、兄弟姉妹がいるかどうかも知らない。
当然、盗みは犯罪だ。何度も見つかっては、全身がぼろぼろになるまで殴られたりもした。
彼に手を差し伸べる大人は皆無だった。いつか、この境遇から脱してやる。それだけを目的に生きてきた。この掃き溜めから脱出するには、力が必要だった。誰も逆らえないほどの圧倒的な力だ。
ある時、彼に一つの幸運が訪れた。そこから彼の第二の人生といっても過言ではない、新たな道が開けていく。それはまた別の話だ。
幼少期の記憶こそが、今のイプセミッシュの原動力になっている。それを他者に
イプセミッシュは常に孤独で、むしろそれを好んだ。本心はどうか分からない。表面的には、そう振る舞ってきたのだ。
(あれに頼ろうとしている俺は間違っているのか。信じれば必ず裏切られる。俺がこれまでの人生で学んだ最大のことだ。人を信じるなど、愚か者のすることだ)
イプセミッシュの根幹が、ここにある。
最後は常に一人だという達観した考えもその一つだ。仲間、同志、友、聞こえのよい言葉は幾つもある。結局、何をするにしても、重要な決断は一人でなさねばならない。
だからこそ、イプセミッシュは絶対的な力を求めた。
(そうだ。力こそが全てをねじ伏せる正義なのだ。俺にとって、十二将もただの駒に過ぎぬ。無論、それは奴らも同じことだろう。
イプセミッシュは、己の歩んできたこれまでの生き方を悔いていない。むしろ、一切ぶれなかったことを誇りにさえ思っている。
(ああ、それでいい。何の文句があろうか。これまで俺はそうやって生きてきた。そして、それを貫き通して死んでいく。ただそれだけだ)
三連月は隠れたままだ。
イプセミッシュは、闇に包まれた外に視線を固定しつつ、
これまで一度たりとも届いたことがない。掴めそうで絶対に掴めない。うっすらと幕が下りたように、そこで弾き返されてしまうのだ。
(いつもと同じか。この記憶だけが、
イプセミッシュは迷いを振り払いつつ、嫌な気分を落ち着かせる。
「ディリニッツ、来ているな」
即答が返ってくる。
「陛下のお
「定刻だ。その男からの報告を聞こうか」
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