第015話:低位の魔霊鬼
「二日前のことです。見つけ出すまでに時間を要したため、精神の牢獄に封じるのが精一杯でした。我が主のお役に立てず、申し訳ございません」
丁寧に頭を下げるカランダイオに、レスティーは軽く
「そうか。その者は」
目の前で
「我が主のご推察どおりかと。この愚か者は、
彼の言葉に満足したのだろう。レスティーが
「
レスティーは思案するまでもなく、すぐさま次なる行動に移る。それぞれに的確な指示を与えていく。
「カランダイオ、精神の牢獄より封じた者を解き放つのだ。そなたたちは持てる力で防御結界を展開、余波が外に
「我が主の
カランダイオをはじめとする宮廷魔術師たちは、等しく
「エレニディール、そなたにはここにいる者の保護を頼みたい。特にこの男だ」
エレニディールことスフィーリアの賢者は不安げな表情を隠しきれないまま、レスティーに尋ねる。
「レスティー、貴男が相対するということは、アレイオーズは」
最悪の状況だ。レスティーがいるとはいえ、スフィーリアの賢者は緊張の色を隠せないでいる。
「
玉座の間が水を打ったかのように静まり返る。
モルディーズは、今にも
「済まない。余の聞き間違いであろうか。アレイオーズが、あの
イオニアにしても、モルディーズにしても
スフィーリアの賢者も、単純に知識として有しているだけだ。実際に
「そう言った」
レスティーの後を引き取って、スフィーリアの賢者が説明を加える。
「アレイオーズの行動を見る限り、間違いありません。活動している時間帯、
液体は粘性があるとはいえ、動けば当然に
消化には大量の
「
この状態を同化と呼ぶ。
「今の状況を
残酷な最後の一言に、モルディーズは耐えきれず
「我が主、それでは解き放ちます」
レスティーの
「
漆黒に
大量の液体を
「ほうほう、ようやく解放ときたか。俺様を封じたこと、
人の形はしている。
顔は完全に崩れ、目や口などもあるにはあるのだろう。どこについているのか、見当もつかない。
粘性液体に覆われた手足は完全に独立し、あり得ない角度で幾重にも折れ曲がっているのだ。
イオニアは思わず叫び出しそうになるところを必死に口を押さえ、
モルディーズも同様だ。彼は
「あああ、父上、父上」
彼の口から出たもの、それはまさに
「これは、これは、心地よいな。もっと泣き叫べ。それが俺様のさらなる活力となるのだ」
スフィーリアの賢者も緊張の面持ちで
知識と実体験は全く異なる。今まさにそれを痛感している。
レスティーがいるから戦いそのものへの心配はない。
(友から託されたのです。
「エグゼン・ブレーヴァ・レーケ・イーナ
ヴァラヌ・スウィディー・オウリ・ジェーピ
邪を
悪しきものを
スフィーリアの賢者がイオニアたちを守るため、同時に宮廷魔術師たちが玉座の間を守るため、防御結界を展開していく。
「
双方が唱えたのは結界魔術だ。
同じ魔術でも用途は異なる。
スフィーリアの賢者のそれはイオニアたち個々を守るための局所型結界で、三重の光壁で強度を高めて対象を保護する。守るべき対象者が多いため、スフィーリアの賢者の力をもってしても三重光壁が限界だ。
宮廷魔術師団のそれは多重詠唱による広範囲結界だ。薄く伸ばした光幕を二重にして、玉座の間全域を保護する。多重詠唱のため防御能力は高まっている。それでも、六人では二重光幕が精一杯だった。
「これは賢者殿の魔術か」
「イオニア殿、決してその場から動かぬように。皆もです」
結界に触れようとするイオニアを制しながら、スフィーリアの賢者は自身が
「ほうほう、これは見事な結界だな。しかし、油断していたとはいえ、俺様を封じたあの男の結界の方が強く見えるぞ。いいのか、俺様とやり合うのにこの程度で」
「まずは俺様を封じたお前からいたぶるとしよう。じわじわと苦痛を与えた後、餌として吸収、残った者どもも等しく
「それは無理というものです。なぜなら、お前の相手は私ではないのでね」
鋭利な
「これは、少々まずいですね」
カランダイオは
三重の光壁がいとも簡単に
「三重では防ぎきれません。賢者殿、貴男が
「承知していますよ、カランダイオ。忠告は、有り難くいただいておきます」
スフィーリアの賢者は、
「ほうほう、防ぎきったか。咄嗟の判断で、新たに結界を展開したのは見事だったな。俺様も加減を間違ったようだ。では、次」
言葉を
(何だ、この異常なまでの冷気は。この俺様が動けないだと。まさか、俺様が恐怖、あり
「遊びは、終わりだ」
一瞬の硬直を
違うのは、左右の腕を同時に用い、全力に等しい威力を込めていることだ。
レスティーの正面に結界はない。
「やはり、人族など俺様の敵にならぬな」
「これが全力か。そうであるなら、
レスティーは微動だにせず、ましてや指一本すら動かしていなかった。
カランダイオは満面の笑みをもって、当然の結果だと大きく
スフィーリアの賢者は、無意識のうちに止めていた息を吐いた。レスティーの力を知っているが
レスティーには彼なりの戦いの流儀がある。戦いにおける彼の原則は、スフィーリアの賢者もなかなか理解できない。圧倒的強者たるレスティーにこそ、可能なものだ。ある意味、周囲にいる者にとっては誤解を与えかねない、迷惑な戦い方でもある。
(相変わらずの流儀ですが、いつもながら心臓に悪すぎます。
「馬鹿な。直撃したはずだぞ。なぜ、平然と立っているのだ。そのうえ、俺様の攻撃を児戯とほざくか」
「出し惜しみするなら、すぐに滅する。そうなりたくなければ、全身全霊、持てる力を出し尽くせ。
「ほうほう、ほうほう、久しぶりに聞いたぞ。我を
レスティーはなおも動かず、その様子をただ
「膨張が止まった。何と、おぞましい姿なのだ」
もとの姿形に比べて、およそ三倍程度にまで膨れ上がっている。眼前で繰り広げられている光景が
この先の展開を想像して、イオニアはたまらなく身体が震えるのだった。
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