銀灰の騎士

荒場荒荒(あらばこうこう)

第1話 冒険者、辞めます。

「俺、冒険者辞めるから」


とある町の冒険者ギルド。国に捉われず、自由に一般人をあらゆる脅威から守る冒険者たちを管理、統括する組織。ここはそのうちの支部の一つだ。


「やはり、辞めてしまわれるのですね」


俺が冒険者を辞めることを聞いた目の前の受付嬢は落ち着いた様子だ。それもそのはず、俺が冒険者を辞めるということは何年も前から事前に知らせてあったのだ。


そのための準備もずっと進めてきて今日、俺はやっと念願の冒険者引退が叶う。


「ギルドマスターがお呼びです。最後にいろいろ話があるそうです」


正直面倒だと思ったが、あと腐れなく辞めるためにもここは素直に従う。


受付嬢に案内された場所は、ギルドの2階にあるギルドマスター専用の部屋。ここにここのギルドの長であるギルドマスターが待っているらしい。


「失礼します」


受付嬢がドアを開けた先には一人の男。傷跡残るスキンヘッドに袖なしのジャケット。40歳手前とは思えないほど鍛え抜かれた筋肉はその腕っぷしの強さを示しているかのようだ。


「ブレン。お前さんが来たということは、今日が引退の日か」


どこか寂しげな様子を見せながらも俺を目の前のソファに座らせる。


「それで、いったい何の用だ?俺のほうからは特に話すこともないし、手続きを終えたらさっさと帰りたいんだが」




俺が15歳の時に冒険者になってから丸10年。最初は自由を求めて冒険者になった。自分の自由を保障してもらえる場所だと思っていたから。だが実際は俺が頭角を現すたびにいろんなしがらみが生まれた。


俺が冒険者を辞めると決めたのはおよそ3年前。だが俺が冒険者ギルドを信じられなくなったのは冒険者ギルドに加入して1年ほど。当時16歳という若さでありながらも怪しさを感じたのはギルド職員の態度からだった。


俺が16歳ながらにいろんな依頼を剣一本でこなす姿から冒険者ギルドが俺に注目し始めた。それも灰色のボサボサ髪と戦闘の時に剣の軌跡が銀色に輝く様子から銀灰の騎士なんて恥ずかしい二つ名も付いた。こういった理由から注目を浴びるだけならばしょうがない部分もあるだろう。


だが俺を待っていたのは俺の足を引っ張ろうとする連中や俺の弱みを握って脅してこようとするやつら。そしてそんなやつらに全く対処としない管理体制の露呈だった。


こんな状況はどこのギルドでも変わらなかった。おそらく俺について情報共有されていたのだろう。だとしても俺に露骨な敵意が向いている状況をスルーしていたことは気に入らなかった。


人を頼るのではなく利用することを覚えたのはこのころだ。そうでもしなきゃ生きていけないと思ったから。




周りを信頼することなく生活すること九年以上。やっと周りのことを気にせず自由に生きられそうなのだ。俺の信用していないギルドの人間の話なんて聞く気はない。


「…やはり意志は固い、か。まあ細かい事務手続きは終わっている。あとはお前さんのギルドカードを回収するだけだ」


そういわれたので俺は懐からギルドカードを出す。これは冒険者ギルドが発行した冒険者としての身分を証明するもので、普段から持ち歩いている。


ちなみに俺は普段から身軽な格好をしているため手荷物などはなく、腰に巾着と自分が愛用している黒い刀を差しているだけだ。


身につけた防具も自分が狩ったモンスターの素材を加工してつくってもらった胸当てとレガースをみにつけるくらいで、あとは黒ベースの上下の服に上から灰色に染まった外套を着ている。


「これでいいな。じゃあ俺は行くぞ」


そういって俺は早々に部屋を出ようとする。自分が警戒し続けた場所で、それも密室に長居したいとは思わない。


「そうか。じゃあな」


俺が背中を見せた瞬間、部屋に忍んでいたやつらが一斉に奇襲を仕掛けてくる。数は三人。そのすべてが短剣を手に持っている。


完全な三方向からの不意打ちで逃れるのは困難。だがそれらの短剣が俺に届くことはなかった。


「何!?なんだそれは!?」


俺と襲撃者との間には銀色の盾が突如出現し行く手を阻む。奇襲が防がれることは想定していた。だがまったく思い当たらない方法で防がれるとは思っていなかったのだ。


ギルドが管理する情報ではブレンという男は黒い刀一本を武器とする剣士となっている。つまり迎撃するとして体術を用いるものだと思っていたのだ。


だが実際に目の前で起こった光景は完全に想定外のもの。


「これは。まさか魔法!?それもこれは固有魔法か?」


この世界にはたしかに魔法は存在し、日常に溶け込んでいる。そのため生活の助けとなるような簡単な魔法を剣士が使えるケースは少なくない。


だが実践レベルとなると話は違ってくる。それも火・水・土・風の四属性を指す基本魔法から外れた固有魔法と思われる銀色の盾。それが一瞬で現れたのだ。ギルドマスターは焦りを禁じえなかった。


「この九年間、冒険者ギルドを信用しなくてよかった」


その一言を残し、ブレンはギルドを後にするのだった。

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