エピローグ
長時間機内に押し込まれた体を、思い切り外で伸ばす。日本では春休みに入り、久々の長期休みに浮かれているころだろう。
「ん」
やはり、こちらは日差しが強い。サングラスをもって言って正解だったか。日本を出発する前に未来から渡された蘭の花束を抱えなおし、サングラスを外す。隣に並んだ姉がアースアイの瞳をきらりと輝かせた。
「おんや?それは彗星蘭ではないか!家族でアメリカに戻ってきたというのに、そんなしゃれたものをまさか覇瑠ちゃんが持っていくとは。お主、仲直りしたんだな!?お姉ちゃんはうれしく思うぞっ!」
バッと両手をこちらに広げてきたが、そのまま華麗に横をスルーする。姉は相変わらず面倒くさい。そのくせなにかと察しがいいので、そろそろ困ってきたところである。空港を出ると、家族とは反対方向に歩きだした。父と母は怪訝そうにこちらを見ていたが、事情を理解したのか「いってらっしゃい」と声をかけてきた。覇瑠が向かう先は一つ。友人のお墓だった。
アメリカには、お墓参りの文化はない。わざわざ墓地へ行かなくとも「常に心の中にいる」「いつも祈っている」という考えがあるからだろう。だが、未来に行っとけと言っておきながら、我ながら一度も向かったことが無かったので、今回行くことにしたのだ。墓地に足を踏み入れれば、やはり誰も人はいなかった。新しいお墓から目を通し、ようやく友人のお墓を見つけた。
―—永遠に私たちの心の中に。
名前のそばに、そう一言添えてあった。花束から一輪蘭を取り出し、お墓に挿す。確か花言葉は―—
「特別な存在……」
思わず、薄く笑みがこぼれる。確かに、自分たちの関係を言い表すなら、それが妥当だろう。初めて褒めてくれた存在。それが、自分にとっての特別であった。また彼に音を尋ねてもいいのだろうか。またあの子は、答えてくれるのだろうか。
「……彗星蘭に、音を尋ねて」
我ながら何を言っているのだろう。もう、彼はこの世にいないのに。熱くなった目頭をそっと抑え、そのまま墓地を去った。潔く別れを告げよう。
少年はこの日、花の意味を知った。
彗星蘭に音を尋ねて 青笹まりか @brillante
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