第15話「ドラフォルム」
「遊ぼうや。もう追いつけんのだからな」
「追いつけない?」
俺が守りたいのは聖龍姫たちだけなのか? いやそんなことはない。俺はみんなを守りたいんだ聖龍姫たちの笑顔も、町のドラゴンたちの生活も!
「んが⁉︎ く、くそ勇者ァ!」
「お前らのことはよく知らないし、恨みだってそんなにない。でもな……マリンやイリス、パンナや町のみんなの生活を脅かすなら俺はお前らを容赦なく斬るぜ……」
「たとえ我らがやられても同胞は……」
「な、何事⁉︎」
俺は武器を持っている邪竜兵を容赦なく斬り伏せ、肘を土頭に叩き込んでやった。そうすると俺の周りは邪竜の死体と気絶した体だけが残った。騒ぎを聞きつけたのかイリスとサキが多少息を切らして走ってきた。
「パンナが攫われた」
「え? パンナが⁉︎ ど、どうして……」
「わからない。でも追いかけないと。サキ、こいつらの処分、頼めるか?」
「は、はい! かしこまりました」
サキはクノイチだけあって荒事なんかにも慣れてるんだろう。すぐに邪竜の死体の処分に取り掛かってくれた。イリスは動揺しているようだけど構ってはいられない。すぐにでも助けにいかなくては。
「俺は逃げた邪竜を追うから、あとは頼むぞ」
「はっ。このサキにお任せを」
「ち、ちょっと待ちなさい!」
「な、なんだよイリス。早く行かないと見失っちまう!」
「落ち着きなさい。だからよ」
「は? どういう意味──」
イリスは俺を止めようとしている。たしかに何か策があるかと言われたら言葉に詰まるくらいには無策。それでも俺はパンナに助けてと言われた。顔は全部は覚えていない。それでも短い間でも話したパンナとの時間もあいつの顔も声も俺は忘れていない。それに俺はパンナのことは小さな可哀想な少女ではなく、友達だと思っている。それに俺はあいつに約束した。ハドを助けてやると。その約束を俺はまだ果たしていない。約束は果たさないといけない守らないといけない。だから俺はひとりでもあの邪竜兵たちを追うだったんだが──
「ドラフォルム! さあ私の背中に乗りなさい! そっちの方がずっと早いわ!」
「わわ⁉︎ は? な、なんだよそれ!」
「何ってドラフォルム──正真正銘、純度100%の完璧なドラゴンの姿よ」
「ドラゴンになれたのかよ……」
「えぇ、もちろん。時間制限はあるけれど、一応30分くらいはドラゴンフォルム──完璧なドラゴンの姿を保つことができるわ」
驚いた。イリスがドラフォルムとかいう言葉を叫んだと思ったら蛇のように長く伸びた体にガッチリとした硬質感のあるフォルムに鋭く伸びた手足、背中から空を目指すように雄々しく伸びた双翼はどれも眩いほどの黄金色に輝いていた。しかしそれとは対照的に瞳はヤケに可愛らしく、つぶらな瞳をしていてそこだけは威厳よりも可愛さが勝っていた。成人というか成龍であるところの聖龍王よりはひとまわり──いや、ふたまわり以上も小さく見える。まあ聖龍王がデカすぎるだけな気もするが。
「…………」
「な、なによ……そんなに見つめて」
「イリス……」
「な、なに?」
「何も着ていないけど、もしかして今のお前は裸──いや全裸、なのか⁉︎」
俺はついつい、まじまじとイリスの体を見つめてしまう。かっこいいのはもちろんだが、こいつは今、完全に裸だ。完璧なドラゴンの姿なのだから当たり前かもしれないが裸だ。それについてどうしても好奇心が抑えられず訊いてしまった。
「は、はあ⁉︎ こんなときにいきなり何を言い出すのよ⁉︎」
「いや、どうしても気になって……裸──いや全裸なのか! 教えてくれ!」
「ぜっ、ぜっ⁉︎ そ、そんなの言えるわけないでしょ!」
「違うのか⁉︎」
絶句したように言葉に詰まるイリス。その姿でモジモジと恥ずかしそうにするイリス。ドラゴン娘萌えだけでなくドラゴン萌えでありドラゴン燃えでもある俺には最高にご褒美だった。
「違わないけど……ち、違うのよぉ!」
「勇者殿。イリスさまは現在、大変混乱なさっていますので……
「……申し上げますと?」
「今のイリスさまのお姿は誰がどう見ても全裸です」
「ぜ、全裸!」
「はい! パーフェクト全裸・イリスさまでございます!」
「な、なんだってー⁉︎ パーフェクト全裸なイリスだと⁉︎ うおおおおおおおおっっ!!」
確認は難しいが半人半龍のイリスだったなら顔を真っ赤にして怒るだろうが今のイリスは完璧なドラゴンで一糸纏わぬ姿をしているため窺い知れない。困っているイリスを見かねたのかサキがおずおずと前に出てきて高らかに宣言した。答え合わせだ。今のイリスはドラゴンの目から見ても全裸であったらしい。ついつい興奮して片手拳を空に掲げて歓喜の咆哮を上げてしまった。
聖龍の勇者 むぎさわ @mugisawa
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